【ことわざ】
得たり賢し
【読み方】
えたりかしこし
【意味】
物事が自分の思いどおりに運んだとき、満足して発する言葉。しめた、うまくいった、という意味。


【英語】
・Bingo!(しめた、うまくいった)
【類義語】
・しめた(しめた)
・得たりやおう(えたりやおう)
【対義語】
・仕舞った(しまった)
「得たり賢し」の語源・由来
「得たり賢し」は、「得たり」と「賢し」から成る古い言い方です。「得たり」は、古語の動詞「う(得)」の連用形に完了の助動詞「たり」が付いた形で、事がうまく運んだときや、うまくやり遂げたときに発する言葉です。
「賢し」は、古語では「恐れ多い」「すぐれている」「賢明である」などの意味をもつ形容詞です。この表現では、「得たり」だけでも「しめた」の意味を表しますが、「賢し」と結びついて、喜びや満足を調子よく表す決まり文句になっています。
古い用例として、『太平記(たいへいき)』(14世紀後半成立・南北朝時代、作者未詳)巻十五に、「得たり賢しと三千余騎の兵共、抜き連て」とあります。これは、多くの兵が好機と見て、刀を抜き連ねて進む場面で使われています。
『太平記』は、鎌倉幕府の滅亡、建武新政、南北朝の対立などを描いた全40巻の軍記物語です。合戦の場面が多く、この言い方も、戦いの中で「今こそよい機会だ」と勢いづく心の動きを表しています。
このことから、「得たり賢し」は、はじめから静かな喜びだけを表す言葉ではなく、相手の隙や自分に有利な流れを見て、勢いよく動き出す気持ちと結びついていたことが分かります。現在の「しめた」「うまくいった」という意味にも、その瞬間を逃さない調子が残っています。
江戸時代に入ると、軍記物語や浄瑠璃の世界でも、この言い方が使われました。『鎌田兵衛名所盃』(1711年ごろ・江戸時代前期)には、「為朝えたり かしこし とさし取引取雨のごとく」という用例があり、人物が好機をとらえて動く場面に出てきます。
また、『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)にも「えたり かしこし」が収められています。『諺苑』は俗語や俗諺を集めた書物で、この表現が江戸時代にはことわざ・決まり文句として受けとめられていたことを示しています。
形の変化としては、「得たりや賢し」「得たりやおう」などの近い言い方もあります。「得たりやおう」は、うまく仕留めたときや、それ来たと応戦するときに発する言葉で、戦いや勝負の場面に合う勢いのある表現です。
近代文学にも、この言い方は残りました。夏目漱石の『虞美人草(ぐびじんそう)』(明治40年、夏目漱石著)には、「降って湧いた温泉へ得たり賢しと飛び込む気にもなる」という用例があります。ここでは、思いがけず都合のよいものを得た喜びとして使われています。
さらに、島崎藤村の『破戒』(1906年、島崎藤村著)にも、「得たり賢し」と喜ぶ心を表す用例があります。合戦から近代小説まで、場面は変わっても、自分の望むとおりに事が運んだ瞬間の満足を表す言葉として受け継がれてきました。
現在では、少し古風で文語的な響きをもつ言い方です。日常会話では「しめた」「うまくいった」と言うことが多いものの、文章の中では、好機を逃さず動く人物の心を、生き生きと表すことができます。
「得たり賢し」の使い方




「得たり賢し」の例文
- 相手チームの守備が乱れた瞬間、得たり賢しとばかりに彼はゴールへ走り込んだ。
- 探していた資料が偶然机の上に出ていたので、彼女は得たり賢しと作業を進めた。
- 値下げの札を見つけた母は、得たり賢しと必要な文房具をまとめて買った。
- 会議で反対意見が出なくなったのを見て、課長は得たり賢しと新しい案を出した。
- 雨がやんだのを見て、子どもたちは得たり賢しと校庭へ飛び出した。
- 相手の失言を聞いた弁護士は、得たり賢しとその点を静かに問い直した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』Oxford University Press。
・『太平記』14世紀後半成立。
・『鎌田兵衛名所盃』1711年ごろ。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・夏目漱石『虞美人草』1907年。























