【ことわざ】
一運二腰三拍子
【読み方】
いちうんにこしさんびょうし
【意味】
相場で利益を得るには、第一に運、第二に粘り強さ、第三に時機をつかむことが大切だということ。


【英語】
・luck, patience, and timing(成功に必要な運・粘り強さ・時機)
・timing is everything(時機のよしあしが結果を大きく左右すること)
【類義語】
・運鈍根(うんどんこん)
・運根鈍(うんこんどん)
・待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり)
【対義語】
・濡れ手で粟(ぬれてであわ)
「一運二腰三拍子」の語源・由来
「一運二腰三拍子」は、米や株など、値段の上がり下がりを見て売買する相場の世界から生まれたことわざです。ここでいう「一」「二」「三」は、単なる数ではなく、何を重んじるかを順に並べる言い方です。第一に運、第二に腰、第三に拍子を挙げることで、利益を得るには幸運だけでなく、持ちこたえる力と、時機を見きわめる力が必要だと教えています。
「腰」は、体の腰そのものではなく、相場の上がり下がりにすぐ動揺しない胆力や粘りを表します。古くから「腰が据わる」「腰が強い」のように、腰は落ち着きや押し通す力を表す言葉としても使われてきました。このことわざでも、値動きにあわてて売り買いを変えず、考えた方針を保つ力を「腰」と呼んでいます。
「拍子」は、もともと音楽の調子やリズムを表す言葉ですが、物事の進む勢いや、何かが行われるちょうどその時を表す意味もあります。相場のことわざとしては、上がるとき、下がるとき、売るべきとき、買うべきときといった機会を逃さない判断を指します。したがって「三拍子」は、運や粘りだけでは足りず、よい時機に動くことも欠かせないという意味を加えています。
江戸時代の相場書『糴糶必用八木豹之巻(てきちょうひつようはちぼくひょうのまき)』(1773年・江戸時代中期、猛虎軒著)には、米商人の言う「一運二腰三拍子」として、この言葉に近い形が出てきます。「糴糶」は米の売買を表す言葉で、題名そのものからも、この書物が米相場にかかわる知識を扱うものであったことが分かります。
『糴糶必用八木豹之巻』は、相場をただの勘や偶然で扱うのではなく、心の持ち方や判断の仕方を説く書物として伝わりました。後の明治期にも、猛虎軒著『糴糶必用八木豹の巻』(1885年、鹿田源蔵刊/1886年、江尻芳次郎刊)として刊行されており、米商いに関する古い心得が近代にも読み継がれていたことが分かります。
近代の相場用語集にも、このことわざははっきりした相場の心得として出てきます。荒山泰編『期米株式相場用語全集』(1915年、信義堂刊)では、「一運二腰三拍子」を、相場で利益を得るための秘訣として扱い、「腰」を胆力、「拍子」を思惑どおりに相場が動く時機として説明しています。
さらに、読売新聞経済部編『相場常識:附・相場用語、投資第六感』(1936年、創造社刊)にも、「一運、二腰、三拍子」が項目として掲げられています。このことから、この言い方は江戸時代の米相場の知恵にとどまらず、近代の株式や商品取引の世界でも、売買の心得を短く表す言葉として用いられていたことが分かります。
このことわざの大切な点は、「運」が最初に置かれていることです。相場では、どれほど考えても天候、景気、人の動きなど、自分だけでは決められない要素があります。しかし、運だけで成功できると言っているのではありません。運に恵まれたとき、それを生かすだけの腰の強さと、拍子を逃さない判断がそろって、初めて成果につながるという考え方です。
現在の「一運二腰三拍子」は、主に投資や商売、勝負ごとなど、結果に不確かな要素が大きい場面で使われます。ただし、むやみに危ない取引を勧める言葉ではありません。運に期待しすぎず、途中で投げ出さず、好機を冷静に見きわめることが大切だという、相場から生まれた経験則として受け取るのがふさわしいことわざです。
「一運二腰三拍子」の使い方




「一運二腰三拍子」の例文
- 相場で利益を出すには、一運二腰三拍子の三つがそろうことが大切だ。
- 父は株の話になると、一運二腰三拍子を忘れず、運だけを頼みにしてはいけないと言う。
- 米の売買を学ぶ資料には、一運二腰三拍子という古い相場のことわざが出てきた。
- 商売で成功した店主は、一運二腰三拍子のとおり、好機を待つ辛抱強さを持っていた。
- 試合の作戦にも一運二腰三拍子の考え方が当てはまり、流れが来るまで落ち着くことが必要だった。
- 一運二腰三拍子という言葉は、不確かな状況で成功するには、運・粘り・時機の三つが要ることを教える。
主な参考文献
・猛虎軒『糴糶必用八木豹之巻』塩屋長兵衞・藤屋弥兵衛、1773年。
・猛虎軒『糴糶必用八木豹の巻』鹿田源蔵、1885年。
・猛虎軒『糴糶必用八木豹の巻』江尻芳次郎、1886年。
・荒山泰編『期米株式相場用語全集』信義堂、1915年。
・読売新聞経済部編『相場常識:附・相場用語、投資第六感』創造社、1936年。























