【慣用句】
お茶を挽く
【読み方】
おちゃをひく
【意味】
芸者・遊女などが、客がつかず暇でいること。転じて、客商売で客が来ず、仕事がなく暇であること。


【英語】
・have no customers(客がつかない)
【類義語】
・閑古鳥が鳴く(かんこどりがなく)
・開店休業(かいてんきゅうぎょう)
【対義語】
・千客万来(せんきゃくばんらい)
「お茶を挽く」の語源・由来
「挽く」は、臼を回して茶葉を細かな粉にすることです。抹茶は、原料となる碾茶(てんちゃ)を茶臼などで微粉末にして作ります。
昔、茶を挽く作業は、留守居(るすい)の者や、ほかに用事のない人に任せられる仕事でした。そのため、この具体的な作業の名から、「暇で用事がない」という意味が生まれました。
とりわけ江戸時代の遊里では、客のつかない遊女が、茶臼で葉茶を挽く仕事をさせられたといいます。そこから、芸者や遊女などが客を得られず、暇でいることを「お茶を挽く」と表すようになりました。
この意味を表す古い用例は、『満散利久佐(まさりぐさ)』(1656年・江戸時代前期、藤本箕山著)に出てきます。『満散利久佐』は、遊女の容姿や振る舞いなどを取り上げた遊女評判記です。
作中の遊女小藤に対する評には、「茶をひきても、苦にせず」とあります。ここでの「茶をひく」は、客がつかないことを苦にしない、という意味で用いられており、17世紀半ばには、すでに遊女の暇な状態を表す言い方となっていました。
この段階では、「お」を付けない「茶を挽く」という形です。しかし、茶を作るという本来の動作ではなく、客が来ず商売にならないことを表している点では、現在の「お茶を挽く」と同じ意味につながっています。
その後、『諸艶大鑑(しょえんおおかがみ)』(1684年・江戸時代前期、井原西鶴著)にも、この言い方が出てきます。この作品は『好色二代男(こうしょくにだいおとこ)』とも呼ばれ、江戸時代の遊里を題材とした八巻八冊の浮世草子です。
巻二には、「下駄はいてうすをいただき、お茶をひかしゃれぬまじないといふ」とあります。下駄を履き、臼を頭に載せて、客がつかずお茶を挽く身にならないよう願うためのまじないを表した一節です。
この用例では、「お茶を挽く」が、遊女にとって避けたい不運として扱われています。単に茶臼を回す作業を指すのではなく、客が来ず暇になることを表す言い方として広く通じていたことが分かります。
さらに、『当世花街談義(とうせいくるわだんぎ)』(1754年・江戸時代中期、孤舟著)には、名詞の「御茶挽」という形が出てきます。この作品は、江戸の花街や遊里の風俗を扱った談義本です。
「お茶挽き」は、遊女や芸者が客を得られず暇でいることだけでなく、そのような状態にある遊女や芸者そのものも指しました。動作を表す「お茶を挽く」から、境遇や人を表す名詞が生まれたのです。
やがて「茶を挽く」は、花街だけに限らず、暇で用事がないことや、客商売で客が来ないことにも用いられるようになりました。ただし、現在でも、客から声がかからず仕事の機会を得られないという意味が、この表現の大切な特徴です。
「お茶を挽く」は、茶臼を静かに回す暇な日の仕事から、客を待ちながら仕事がない状態を表すようになった慣用句です。単なる休息ではなく、商売をしたくても客がつかないという場面を、昔の暮らしに根ざした動作によって言い表しています。
「お茶を挽く」の使い方




「お茶を挽く」の例文
- 雨の夜は座敷の予約が一件もなく、若い芸妓はお茶を挽くことになった。
- 週末なのに指名客が来ず、彼女は店でお茶を挽くばかりだった。
- 新しく開いた写真館は宣伝不足で、初日は一日中お茶を挽く結果となった。
- 観光客が途絶えた旅館では、従業員がお茶を挽く日が続いた。
- 通りから店が見えにくく、移動販売車は午前中ずっとお茶を挽く羽目になった。
- 繁忙期を期待したバーだったが、悪天候のため皆がお茶を挽く一夜となった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・藤本箕山『満散利久佐』1656年。
・井原西鶴『諸艶大鑑』1684年。
・孤舟『当世花街談義』1754年。























