【故事成語】
下学して上達す
【読み方】
かがくしてじょうたつす
【意味】
初歩的なところから学び始め、やがて高遠な学理や深い道理にまで達すること。下学上達。


【英語】
・from the ground up.(基礎から高度な段階まで)
【類義語】
・下学上達(かがくじょうたつ)
【対義語】
・一足飛び(いっそくとび)
「下学して上達す」の故事
「下学して上達す」は、中国古典『論語(ろんご)』「憲問(けんもん)」に出てくる「下學而上達」という言葉にもとづきます。『論語』は、春秋時代の思想家である孔子の言行を伝える古典です。孔子は、前552年または前551年ごろに生まれ、前479年に没した人物です。
この一節は、孔子が自分の生き方を振り返る場面に出てきます。原文には、孔子が「自分を知ってくれる者はいない」と言い、弟子の子貢が「どうして先生を知る者がいないのでしょうか」とたずねる流れが書かれています。
その問いに対して、孔子は「不怨天,不尤人。下學而上達。知我者,其天乎」と答えます。これは、天を怨まず、人をとがめず、身近なところから学んで高い境地へ進んできた、自分を知るものは天であろう、という趣旨です。
ここでいう「下学」は、低い学問という意味ではなく、身近なこと、手近なこと、初歩的なことから学ぶことを表します。「上達」は、単に技術がうまくなることにとどまらず、高遠な学理や深い道理にまで達することを表します。
孔子のこの言葉では、はじめから大きな道理だけを語るのではなく、日々の学びや身近な実践から出発する姿勢が重んじられています。その積み重ねが、やがて人としての高い境地や深い理解につながる、という考え方がこの故事成語の骨組みです。
同じ「下學而上達」の句は、後の文献にも伝わっています。『史記』「孔子世家」や『説苑』「至公」などにも近い形で出てきており、孔子の言葉として広く受け継がれたことが分かります。
日本語としては、句の形をそのまま読み下した「下学して上達す」と、四字熟語の形に縮めた「下学上達」の両方が用いられてきました。「下学上達」は、古くは「かがくしょうたつ」と読まれたこともあり、現在は「かがくじょうたつ」と読むのが一般的です。
日本での古い用例として、『天草本平家物語』(1592年・安土桃山時代)に「cagacuxite(カガクシテ) xǒtat(シャウタツ) suruua(スルワ)、ツネノハウナリ」という形が出てきます。これは、ローマ字で当時の日本語の音を記した資料で、「下学して上達するは、常の法なり」という意味にあたります。
『天草本平家物語』は、16世紀の日本を訪れたキリスト教宣教師の日本語学習のために編集された読本で、1592〜1593年に印刷されたキリシタン版の一つです。ポルトガル語式のローマ字で書かれているため、当時の日本語の発音や話し言葉を知る手がかりになります。
この用例では、「下学して上達する」という言い方が、学びの順序を表す一般的な考えとして受け取られていたことが分かります。つまり、孔子の言葉が、単なる古典の一節にとどまらず、日本語の中で学問や修養のあり方を示す表現として使われるようになっていたのです。
明治時代には、福沢諭吉『西洋事情』(1866〜1870年、福沢諭吉著)に「下学上達次第に其議論の貴きを知り」という用例が出てきます。ここでは、まず手近なことに取り組み、学びを積むうちに、しだいに議論の深い価値を知るという意味で使われています。
このように、「下学して上達す」は、『論語』の孔子の言葉から出て、漢文の句として伝わり、日本では読み下しの形と四字熟語の形の両方で定着しました。現在でも、基礎を軽んじず、身近なことから一歩ずつ学んで高い理解へ進むことを表す故事成語として使われています。
「下学して上達す」の使い方




「下学して上達す」の例文
- 書道の先生は、筆の持ち方から毎日直すことが下学して上達すの道だと教えた。
- 研究者は難しい理論に入る前に、基礎文献を丁寧に読む姿勢を下学して上達すと考えた。
- 料理人は包丁の扱いと火加減を学び続け、下学して上達すの精神で腕を磨いた。
- 英語の長文読解で苦しんだ生徒は、単語と文法に戻ることが下学して上達すにつながると気づいた。
- 職人の世界では、単純な作業をおろそかにしない下学して上達すの態度が重んじられる。
- 新しい仕事を任された兄は、先輩の手順を一つずつ覚え、下学して上達すの姿勢で力をつけた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・『論語』。
・福沢諭吉『西洋事情』1866〜1870年。
・『天草版平家物語』1592年。
・Webster’s New World College Dictionary, 5th Digital Edition, HarperCollins, 2025.























