【故事成語】
風に順いて呼ぶ
【読み方】
かぜにしたがいてよぶ
【意味】
風上から風下へ向かって呼ぶと声がよく届くように、勢いに乗じて物事を行えば成功しやすいというたとえ。


【英語】
・make hay while the sun shines.(よい機会が続いている間に、それを十分に生かす)
・hoist your sail when the wind is fair.(風向きがよいときに帆を上げる、好機を逃さず行動する)
【類義語】
・追風に帆を上げる(おいてにほをあげる)
・得手に帆を揚げる(えてにほをあげる)
・流れに棹さす(ながれにさおさす)
「風に順いて呼ぶ」の故事
「風に順いて呼ぶ」は、中国の古典『荀子(じゅんし)』の「勧学」にもとづく故事成語です。『荀子』は、戦国時代末の思想家である荀況(じゅんきょう)とその学派の著作を集めた書物で、紀元前3世紀ごろに成立したとされます。
「勧学」は、学ぶことの大切さを説く篇です。そこでは、人が生まれつき特別でなくても、よい方法や外の助けを上手に用いれば、大きな働きをすることができると説いています。
この考えを説明するために、『荀子』は身近なたとえを重ねます。高い所に登って手招きすれば、腕が長くなったわけではないのに遠くからも見え、風に順って呼べば、声が強くなったわけではないのによく聞こえる、という内容です。
原文には、「順風而呼,聲非加疾也,而聞者彰」とあります。これは、風の向きに従って呼べば、声そのものが大きくなったのではないのに、聞く人にははっきり届く、という意味です。
この一節の要点は、声の力だけを問題にしているところにはありません。同じ声でも、風という条件を味方につければ、伝わり方が大きく変わるという点にあります。
『荀子』は、続いて、車馬を借りる人は足が速くなったわけではないのに千里に至り、舟を借りる人は泳ぎが上手になったわけではないのに川を渡れる、と述べます。そして、君子は生まれつき人と異なるのではなく、物をよく借りるのだ、という考えに結びつけています。
ここでいう「物を借りる」とは、ただ道具を使うことだけではありません。学問、よい師、時機、環境など、自分を助ける条件を正しく用いることまで含んでいます。
「風に順いて呼ぶ」は、この『荀子』の比喩のうち、風に従って声を届ける部分が日本語の表現として定着したものです。風の向きを利用する具体的な姿から、勢いに乗じて事を行えば成功しやすい、という意味へ広がりました。
日本語の古い用例としては、洒落本『伊賀越増補合羽之龍』(1779年・江戸時代中期)序に、「風に順って呼べば、声高からずして聞く者多し」とあります。声を特別に高くしなくても、風に従えば聞く人が多くなる、という形で、『荀子』のたとえを受け継いでいます。
この用例では、「風に順いて呼ぶ」という成句そのものに近い形で、すでに日本語の文章の中に取り入れられています。中国古典の一節が、江戸時代の文章にも自然に用いられるほど、学問や文章表現の中で知られていたことが分かります。
現在の「風に順いて呼ぶ」は、好条件をただ待つだけの言葉ではありません。よい流れを見きわめ、それを生かして物事を進める知恵を表す故事成語として使われています。
「風に順いて呼ぶ」の使い方




「風に順いて呼ぶ」の例文
- 新商品が話題になっている時期に広告を出すのは、風に順いて呼ぶようなやり方だ。
- 地域の祭りで人通りが増える日に店を開くのは、風に順いて呼ぶ工夫といえる。
- 本への関心が高まっている今、読書会を開くのは風に順いて呼ぶ好機だ。
- 選手の人気が高いうちに応援企画を始めたので、まさに風に順いて呼ぶ形になった。
- 学校全体が環境問題に関心を持っている今なら、清掃活動の提案も風に順いて呼ぶことになる。
- 時代の流れをよく見て事業を広げる姿勢は、風に順いて呼ぶという言葉に通じる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・現代言語研究会著『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・荀況『荀子』紀元前3世紀ごろ。
・『伊賀越増補合羽之竜』1779年。























