【ことわざ】
臭い者身知らず
【読み方】
くさいものみしらず
【意味】
他人の欠点には気づいても、自分自身の欠点や短所はなかなか自覚できないというたとえ。


【英語】
・be blind to one’s own faults.(自分自身の欠点に気づかない)
【類義語】
・息の臭きは主知らず(いきのくさきはぬししらず)
・目はその睫を見る能わず(めはそのまつげをみるあたわず)
「臭い者身知らず」の語源・由来
「臭い者身知らず」は、悪臭を発している本人が、自分の臭いに気づかずにいる姿をもとにしたことわざです。周囲の人にはすぐに分かる臭いでも、本人には分からないことから、他人の欠点は目につきやすい一方で、自分自身の短所や過ちは自覚しにくいという意味を表すようになりました。
表記には、「臭い者身知らず」のほか、「臭い物身知らず」「臭物身知らず」などがあります。いずれも「くさいものみしらず」と読み、自分に属する欠点ほど、自分では見つけにくいという同じ意味で用いられます。
最古級の用例は、江島其磧作の浮世草子(うきよぞうし)『傾城禁短気(けいせいきんたんき)』(1711年・江戸時代中期)に出てきます。この作品は六巻から成り、八文字屋から刊行された、男女の色恋や人間の振る舞いを描いた物語です。
『傾城禁短気』第三巻には、「くさい物身しらず」という形があります。夫婦について皮肉を述べるくだりで用いられており、当人たちには自分たちの問題が分からず、仲がよいと思い込んでいる様子を、臭いに気づかない人になぞらえています。
この用例では「者」ではなく「物」と書かれていますが、すでに実際の悪臭だけを表しているわけではありません。自分に関わる欠点や好ましくない状態を、自分では正しく見ることができないという、現在とほぼ同じ比喩的な意味で使われています。
後には、「物」「者」のどちらの表記も使われながら、ことわざとして定着しました。「者」と書けば、臭気を発している本人という意味が表面に出ますが、「物」と書く形でも、ここでの「もの」は欠点をもつ当人を含んでおり、意味に違いはありません。
大正時代には、南方熊楠の『十二支考(じゅうにしこう)』(1914〜1923年)にも、「臭い物身知ず」という表記が出てきます。南方熊楠は、他国の伝承を笑いながら、自分たちが重んじる書物にも似た話があることを見落としている人々を批判するために、このことわざを用いました。
この用例では、臭いはすでに人間の欠点や矛盾を表す比喩となっています。他人や異なる文化の問題はよく見えるのに、自分たちにも同じような問題があることには気づかないという、人間のものの見方の偏りを言い表しています。
このように、「臭い者身知らず」は、自分の臭いには自分で気づきにくいという具体的な姿から生まれ、やがて、自分の欠点を自覚できない人間の性質を表すことわざとなりました。現在では、他人ばかりを批判して自分を省みない人を戒める場合だけでなく、自分にも気づいていない欠点があるかもしれないと振り返る場合にも用いられます。
「臭い者身知らず」の使い方




「臭い者身知らず」の例文
- 彼は他人の話し方ばかり批判するが、自分にも同じ口癖があり、臭い者身知らずだ。
- 子どもの片づけ方を責めながら自分の机を散らかしている父は、まさに臭い者身知らずだ。
- 友人の忘れ物を笑った直後に自分も教科書を忘れ、臭い者身知らずだったと気づいた。
- 部下の報告不足を責める上司自身が情報を共有しないのでは、臭い者身知らずというほかない。
- 社会の無礼を嘆きながら人を傷つける書き込みをするのは、臭い者身知らずの振る舞いだ。
- 人の欠点を数える前に、臭い者身知らずになっていないか自分を省みるべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・江島其磧『傾城禁短気』八文字屋、1711年。
・南方熊楠『十二支考』1914〜1923年。
・Diana Lea・Jennifer Bradbery編『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第10版』Oxford University Press,2020.























