【ことわざ】
口でけなして心で褒める
【読み方】
くちでけなしてこころでほめる
【意味】
表面では相手を悪く言いながら、心の中では高く評価していること。


【類義語】
・口は口、心は心(くちはくち、こころはこころ)
【対義語】
・口に蜜あり腹に剣あり(くちにみつありはらにけんあり)
・言葉は心の使い(ことばはこころのつかい)
「口でけなして心で褒める」の語源・由来
「口でけなして心で褒める」は、口に出す言葉と、心の中の評価とを対照させた表現です。ここでいう「口」は、体の一部というよりも、実際に口に出した言葉を表します。「心」は、外からは直接分からない本音や内心を指します。
「けなす」は、相手や物事の欠点を取り上げ、価値が低いかのように言うことです。漢字では「貶す」とも書きます。これに対して「褒める」は、優れている点や立派な行いを認め、よく評価することを意味します。二つの正反対の行為を一文の中に置くことで、表向きの言葉と本当の評価との食い違いを鮮明に表しています。
言い回しの前半は「口でけなして」となっており、他人に聞こえる形で低く評価する様子を示しています。後半の「心で褒める」は、その言葉とは反対に、内心では相手の長所や力量を認めていることを示します。「口」と「心」、「けなす」と「褒める」という二組の対照によって、短いながらも意味の分かりやすいことわざになっています。
このことわざと同じ発想は、「口でけなして心で褒めて 人目しのんで見る写真」という都々逸(どどいつ)にも表れています。この一句では、人前では好きな相手を悪く言っている人物が、だれにも見られないところで、その人の写真を眺めています。表に出す言葉とは反対の愛情や高い評価を、心の中に隠している場面です。
この都々逸は、中道風迅洞編『どどいつ万葉集―風迅洞私選』(1992年)に収められています。同書は、古典から現代までの都々逸を集めた作品集です。ただし、この一句をことわざそのものの最初の用例と断定するのではなく、同じ言い回しと考え方が都々逸の世界にも伝わっている例として捉えるのが適切です。
都々逸では、後ろに「人目しのんで見る写真」と続くため、「心で褒めて」という形を取ります。一方、ことわざとして独立させる場合は、文を言い切る「心で褒める」という形になります。表記には、対象語のように「けなして」と仮名で書く形のほか、「口で貶して心で褒める」という漢字を用いた形もあります。意味と読み方は、いずれも同じです。
広い意味で近いことわざに、「口は口、心は心」があります。こちらは、口に出して言うことと、心の中で思うことが一致しないという、表裏の違い全般を表します。「口でけなして心で褒める」は、その中でも、口では低く評価しながら、内心では高く評価するという、評価の向きまで具体的に示している点に特徴があります。
反対の発想を示すのが、「口に蜜あり腹に剣あり」です。こちらは、口では甘く親切なことを言いながら、心の中には人を害そうとする考えを隠していることを表します。口ではけなしながら心では認めている「口でけなして心で褒める」とは、表面と内面の善悪がちょうど逆になっています。
また、「言葉は心の使い」は、心に思っていることが自然に言葉へ表れるという意味です。言葉と心とが食い違う「口でけなして心で褒める」に対し、言葉が心をそのまま伝えるという考え方を示しています。
このことわざは、単に悪口を言う人を表すものではありません。外では相手を低く言いながら、心の中ではその長所や実力を認めているという、言葉と本音の複雑な関係を表します。照れや人目への遠慮から素直に褒められない場合にも当てはまりますが、相手を傷つけるほど強くけなす行為を勧める言葉ではありません。
「口でけなして心で褒める」の使い方




「口でけなして心で褒める」の例文
- 父は息子の作品をまだ未熟だと言ったが、大切に飾っており、口でけなして心で褒める態度だった。
- 彼女は友人の演奏をたいしたことはないと言いながら何度も聴いており、口でけなして心で褒める様子がうかがえた。
- 先生は提出された作文の欠点ばかりを挙げたが、その才能を認めており、口でけなして心で褒めるところがあった。
- 兄は妹の料理を平凡だと評したものの、残さず食べたので、口でけなして心で褒めるようなものだった。
- 同僚の手腕を表向きは低く言いながら、重要な仕事を任せる部長は、口でけなして心で褒める人だ。
- 口でけなして心で褒めるだけでは真意が伝わらないため、ときには率直に相手の長所を認めることも大切だ。
主な参考文献
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・中道風迅洞編『どどいつ万葉集―風迅洞私選』徳間書店、1992年。























