【ことわざ】
口に地代は出ない
【読み方】
くちにじだいはでない
【意味】
言葉を口にするだけなら費用はかからないとして、身勝手なことを好き放題に言うことのたとえ。


【類義語】
・口に税はかからぬ(くちにぜいはかからぬ)
・口に年貢はいらぬ(くちにねんぐはいらぬ)
「口に地代は出ない」の語源・由来
「地代(じだい)」とは、他人の土地を借りた人が、地主に支払う借地料のことです。土地を使えば地代を払わなければなりませんが、口から言葉を出しても、話した分だけ料金を取られることはありません。この取り合わせをたとえとして、費用がかからないのをよいことに、勝手な発言をする態度を皮肉ったのが「口に地代は出ない」です。
この発想に通じる古い用例は、江戸時代中期の談義本(だんぎぼん)『根無草(ねなしぐさ)』(1763年、平賀源内著)に出てきます。そこには、「いかに口から地代の出ぬものなればとて」とあります。「いくら口から地代が出ないからといって」という意味で、言葉が無料だからといって、何を言ってもよいわけではないという文脈を表しています。
この用例では、現在のことわざとは語順が異なり、「口から地代の出ぬ」という形になっています。しかし、「口」と、本来は土地に対して支払う「地代」とを結び付け、話すことには代金がかからないというたとえを作る点は、現在の表現と同じです。
現在の形にいっそう近い例は、洒落本(しゃれぼん)『山下珍作(やましたちんさく)』(1782年・江戸時代中期、奈蒔野馬乎人著)の「地客(じきゃく)」の場面にあります。洒落本は、江戸時代の遊里を舞台に、客や遊女の言動を会話を中心に描いた読み物であり、『山下珍作』も、当時の話し言葉を生き生きと記しています。
その一節には、「おかしかいくらでもわらゐな、口にぢだいはでねへよ」とあります。「おかしいなら、いくらでも笑いなさい。口から地代が出るわけではないよ」という意味です。ここでは、「口にぢだいはでねへ」という、現在の「口に地代は出ない」とほぼ同じ言葉の組み立てが、くだけた江戸の会話の中で使われています。
古い用例の「ぢだい」は、現在の表記では「地代」と書きます。また、江戸の話し言葉である「でねへ」は、現在の標準的な言い方では「出ない」に当たります。このように表記や語尾が整えられ、「口に地代は出ない」という形で定着しました。
「口に税はかからぬ」や「口に年貢はいらぬ」という言い方もあります。「地代」を「税」や「年貢」に置き換えたものですが、いずれも、言葉はいくら口にしても金銭を取られないという同じ発想に基づいています。
ただし、このことわざは、自由に話せることをほめる言い方ではありません。言うだけなら損をしないからと、相手の立場や自分の責任を考えず、身勝手なことを口にする態度をたしなめる表現です。土地に払う「地代」という具体的な言葉を用いることで、無責任な放言を、おかしくも鋭く批判しています。
「口に地代は出ない」の使い方




「口に地代は出ない」の例文
- 彼は口に地代は出ないとばかりに、相談もせず自分だけに都合のよい案を並べた。
- 兄は口に地代は出ないからと、家族の予定を無視した要求を次々に口にした。
- 口に地代は出ないとはいえ、友人を傷つける言葉まで許されるわけではない。
- 実行する気もない約束を重ねる生徒に、先生は口に地代は出ないと注意した。
- 部長は口に地代は出ないとばかりに、現場の苦労を考えず注文だけを増やした。
- 匿名の投稿者は口に地代は出ないとばかりに、根拠のない非難を書き連ねた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・洒落本大成編集委員会編『洒落本大成 第11巻』中央公論社、1981年。
・平賀源内『根無草』1763年。
・奈蒔野馬乎人『山下珍作』1782年。























