【ことわざ】
驕る平家は久しからず
【読み方】
おごるへいけはひさしからず
【意味】
地位や財力を鼻にかけて驕り高ぶる者は、その勢いを長く保てず、やがて衰え滅びるというたとえ。


【英語】
・Pride goes before a fall(高慢は没落に先立つ)
【類義語】
・驕る者久しからず(おごるものひさしからず)
・驕れるもの久しからず(おごれるものひさしからず)
「驕る平家は久しからず」の語源・由来
「驕る平家は久しからず」は、『平家物語(へいけものがたり)』(鎌倉時代前期成立か、作者未詳)の冒頭にある「おごれる人も久しからず」という一節から生まれたことわざです。『平家物語』は、仏教の無常観を背景に、平清盛を中心に栄えた平家一門が、源氏との戦いを経て滅びるまでを描いた軍記物語(ぐんきものがたり)です。
巻第一「祇園精舎(ぎおんしょうじゃ)」は、「祇園精舎の鐘の声、諸行無常(しょぎょうむじょう)の響き有り。沙羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理を表す」と始まります。それに続いて、「おごれる人も久しからず、只春の夜の夢の如し」とあります。驕り高ぶっている人の栄華も長くは続かず、春の短い夜に見る夢のようにはかない、という意味です。
原文では「驕る平家」ではなく、「おごれる人」と書かれています。この段階では特定の一族だけを指すのではなく、権勢を得て思い上がった者は、誰であってもやがて衰えるという道理を述べています。物語は、この普遍的な教えを示したうえで、平清盛と平家一門を、その道理を体現する者として描いていきます。
平清盛は、平治の乱の後に中央政界で勢力を伸ばし、1167年には武士として太政大臣(だいじょうだいじん)に上り、一門も朝廷の高い地位を占めるようになりました。『平家物語』では、清盛が権力を振るい、平家に逆らう者を厳しく取り締まる姿や、平時忠が「此一門にあらざらむ人は、皆人非人なるべし」と語るほど、一門が強大な権勢を誇っていた様子を描いています。
しかし、反平氏の動きが各地に広がる中、清盛は1181年に亡くなり、平家一門は1183年に都を離れました。その後も一ノ谷や屋島で敗れ、1185年の壇ノ浦(だんのうら)の戦いで決定的な敗北を喫します。急速に栄えた一門が短い間に没落していく物語の流れは、「おごれる人も久しからず」という冒頭の言葉を具体的に示しています。
『平家物語』は、琵琶法師(びわほうし)が琵琶に合わせて語ることによって各地へ伝わり、語り手や書き手によって内容を増しながら、多くの異なる本文を生みました。遅くとも13世紀末には琵琶法師による語りが行われ、南北朝時代には覚一(かくいち)の系統を中心に、語りの本文が整えられていきました。よく知られた冒頭の一節も、こうした語りを通して広く人々の耳に届きました。
江戸時代に入ると、『平家物語』は写本や語りだけでなく、挿絵を付けた版本としても出版され、多くの人に読まれるようになりました。また、「驕る代官末とげず」「驕る平家に二代なし」「驕る平家は内より崩る」など、同じ教えを表すさまざまな言い方も使われました。こうした広がりの中で、原文の「おごれる人」に物語の主役である「平家」を明確に当てはめた、「驕る平家は久しからず」という形が定着していきました。
明治27年の高山樗牛『滝口入道』には、平家の権勢を描く場面で、「驕るもの久しからずとは驕れるもの如何で知るべき」とあります。また、大正3年の小川未明『天を怖れよ』では、「驕る者久しからず」が、人間がいつまでも地球の支配者でいられるとは限らないという広い意味で使われています。明治以降には、平家の歴史を語る場合だけでなく、驕り高ぶる者すべてへの戒めとしても用いられていたことが分かります。
現在の「驕る平家は久しからず」は、『平家物語』の言葉と平家一門の盛衰とを一つに結び付けた表現です。単に栄えている者は必ず衰えるというだけでなく、成功や権力を頼みにして思い上がれば、その地位を長く保つことはできないという、驕りへの戒めを強く表しています。
「驕る平家は久しからず」の使い方




「驕る平家は久しからず」の例文
- 全国大会で優勝した選手に、監督は驕る平家は久しからずと説き、基本練習を続けさせた。
- 兄は一度の好成績を自慢して勉強を怠ったが、驕る平家は久しからずという通り、次の試験では順位を落とした。
- 市場を独占して客の意見を軽んじた会社は、驕る平家は久しからずと評されるほど急速に信用を失った。
- 町長は驕る平家は久しからずを胸に刻み、大きな支持を得た後も住民の声に耳を傾けた。
- 連勝中のチームだからこそ、驕る平家は久しからずという戒めを忘れてはならない。
- 驕る平家は久しからずを教訓として、彼は事業が成功してからも周囲への感謝と慎重さを失わなかった。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・梶原正昭・山下宏明校注『新日本古典文学大系44 平家物語 上』岩波書店、1991年。
・市古貞次校注・訳『新編日本古典文学全集45 平家物語1』小学館、1994年。























