【ことわざ】
供養より施行
【読み方】
くようよりせぎょう
【意味】
亡くなった人を供養するよりも、生きている人に物を施して助けるほうが大切だということ。


【類義語】
・石に布団は着せられず(いしにふとんはきせられず)
「供養より施行」の語源・由来
「供養より施行」は、「供養」と「施行」という二つの仏教に関わる言葉を対にし、生きている人への実際の助けを重んじたことわざです。ここでいう「施行」は、法律や制度を実施する「しこう」ではなく、「せぎょう」と読みます。
仏教語としての施行(せぎょう)は、僧や貧しい人などに、食べ物・衣服・金品を施す行いを指します。「施」は呉音(ごおん)で「せ」、「行」は「ぎょう」と読み、布施(ふせ)を具体的な行動に移すことを表しました。
この言葉には、平安時代初期までさかのぼる古い用例があります。『日本霊異記(にほんりょういき)』(810〜824年ごろ成立、平安時代初期)下巻には、海中に捨てられた僧が手を伸ばして、「施行を受く」と記されています。ここでの施行は、困っている僧に物を与えるという、目に見える助けのことです。
その後も施行は、寺院の門前や宗教行事の場などで、僧や貧しい人に米・粥(かゆ)・餅・銭などを配る行いとして続きました。中世には、飢饉(ききん)や災害の際、寺院や身分の高い人、武士、裕福な人々が、生活に困る者を救うために施行を行うこともありました。
一方、「供養」は、本来、仏・仏の教え・僧に飲食物や香、花などをささげ、敬うことを表す言葉です。やがて、亡くなった人の冥福(めいふく)を祈って読経(どきょう)や法要を行い、供え物をする意味でも広く使われるようになりました。
このことわざでは、「供養」が死者のために行う儀礼を、「施行」が生きている人に食べ物や金品を与える行為を表します。死者に供え物をする心も尊いものですが、今まさに飢えや寒さに苦しんでいる人がいるなら、まずその人を助けることのほうが急を要する、という考えを示しています。
『俚諺大辞典(りげんだいじてん)』(1933年・昭和8年、中野吉平著、坪内逍遥監修)には、「供養ヨリ施行」という形で収められ、その意味として「死者よりも生者を賑給すべし」とあります。少なくとも昭和初期には、現在と同じ形と意味をもつことわざとして定着していたことが分かります。
「賑給(しんきゅう)」とは、生活に困っている人に金品を施すことです。したがって、「死者よりも生者を賑給すべし」は、死者への供養に力を尽くすだけでなく、まず生きている困窮者を助けるべきだ、という意味になります。
このことわざの「より」は、供養を無用とする言葉ではなく、二つの行いの優先順位を示しています。亡くなった人を思う気持ちを、目の前で困っている人への食事、衣服、金品などの具体的な助けにつなげることに、このことわざの教えがあります。
「供養より施行」の使い方




「供養より施行」の例文
- 祖父の法要を豪華にするより、療養中の祖母の暮らしを支えようという父の考えは、供養より施行に通じる。
- 供養より施行の教えに従い、遺族は祭壇の飾りを控えて、残った費用を被災者支援に役立てた。
- 寺は供養より施行を掲げ、法要の日に地域の生活困窮者へ温かい食事を配った。
- 亡き母が人助けを望んでいたため、家族は供養より施行の思いで福祉施設に寄付した。
- 形だけの追悼で終わらせず、供養より施行を心に留めて、今困っている人へ手を差し伸べた。
- 供養より施行という言葉は、故人を思う心を生きている人への具体的な親切に変える大切さを教える。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・中野吉平著、坪内逍遥監修『俚諺大辞典』東方書院、1933年。
・『日本霊異記』810〜824年ごろ。























