【ことわざ】
何れ菖蒲か杜若
【読み方】
いずれあやめかかきつばた
【意味】
どちらも優れていて、優劣がつけにくいこと。また、よく似ていて、一つを選ぶのに迷うこと。


【英語】
・equally beautiful(どちらも同じように美しい)
・hard to choose between them(どちらもよく、選びにくい)
【類義語】
・甲乙つけ難い(こうおつつけがたい)
・何れ劣らぬ(いずれおとらぬ)
・負けず劣らず(まけずおとらず)
【対義語】
・月と鼈(つきとすっぽん)
・雲泥の差(うんでいのさ)
・玉石混淆(ぎょくせきこんこう)
「何れ菖蒲か杜若」の語源・由来
「何れ菖蒲か杜若」は、中国の古い故事に由来する故事成語ではなく、日本の花の見立てと、日本の古い説話・文学の流れを背景にもつことわざです。菖蒲(あやめ)と杜若(かきつばた)は、どちらも美しい花として親しまれ、形や色合いが似ているため、見分けにくいものや、優劣をつけにくいもののたとえになりました。
ただし、このことわざのもとをたどると、はじめから「菖蒲」と「杜若」が並んでいたわけではありません。古い形として大切なのは、「いづれあやめ」という言い方です。これは、源頼政(みなもとのよりまさ)が鵺(ぬえ)退治の褒美として、菖蒲前(あやめのまえ)という美女を賜る場面に結びついています。
『太平記』(14世紀後半ごろ成立、室町時代の軍記物語)巻二十一には、同じような美女の中から菖蒲前を選ぶよう命じられた頼政が、「五月雨に沢べのまこも水越ていづれあやめと引きぞわづらふ」と詠む場面が出てきます。五月雨で沢の水が増し、真薦(まこも:水辺に生える草)も菖蒲も水に隠れて、どれが菖蒲か引き抜きにくいという意味を重ねた歌です。
この歌では、「あやめ」は、菖蒲前という女性の名と、水辺の草である菖蒲とを重ねています。つまり、もとの中心は「美しい女性を大勢の中から見分けにくい」という場面であり、「杜若」と比べる植物の見分け方だけを直接述べたものではありません。
「いづれあやめ」の話は、『太平記』だけでなく、『源平盛衰記』(14世紀ごろ成立)や『沙石集(しゃせきしゅう)』(13世紀後半、無住著)にも、近い形で伝わります。これらの作品では、頼政や菖蒲前をめぐる話が、和歌の機知と人物の見分けにくさとを結びつける話として受け継がれています。
さらに注意すべき点は、古典の「あやめ」が、今の紫色の花を咲かせるアヤメだけを指していたわけではないことです。古くは「あやめ」や「あやめぐさ」が、端午の節句に用いる香りの強い菖蒲を指すことがあり、これに「菖蒲」の字が当てられました。
この古い菖蒲は、池や川のふちに生える香りのある草で、初夏に、淡い黄色の小さな花が集まった花穂をつけます。現在、花の美しさで知られるアヤメ科のアヤメや花菖蒲とは、植物としての性質や見た目が異なります。
一方、杜若は、古くから歌にも詠まれてきた水辺の花です。『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代)にも杜若を詠んだ歌があり、『伊勢物語』(10世紀ごろ成立、平安時代)第九段には、「かきつばた」の五文字を各句の頭に置いた有名な折句の歌があります。
このように、古典の「あやめ」と「かきつばた」は、ともに古くから知られていましたが、古い「あやめ」は、香りや節句の草としての性格が強く、現在のように、紫の花の姿で杜若と並べて比べる発想とは異なっていました。後の時代に、花の美しいアヤメや花菖蒲の印象が広がり、菖蒲と杜若を似た花として並べる見方が定着していきました。
そのため、「何れ菖蒲か杜若」は、古い「いづれあやめ」の説話的な背景と、後代の花の見立てとが重なってできた表現と考えられます。「いづれあやめ」は、大勢の中から一人を選びにくいことに重心があり、「何れ菖蒲か杜若」は、二つのものがよく似ていて、どちらもすぐれているため選びにくいことに重心があります。
現在のことわざとしては、花そのものの判別だけでなく、美しい人、すぐれた作品、実力の近い選手、よい品物などを比べるときにも使われます。どちらかを軽く見るのではなく、どちらも立派だからこそ迷うという、上品な評価の言い方として受け継がれています。
「何れ菖蒲か杜若」の使い方




「何れ菖蒲か杜若」の例文
- 二人の候補者は演説の内容も人柄もすぐれており、何れ菖蒲か杜若で代表を決めかねた。
- 展覧会に出された二つの絵は、色づかいも構図も見事で、何れ菖蒲か杜若の出来ばえだった。
- 決勝に残った二組の合唱は、声の美しさも表現力も高く、何れ菖蒲か杜若と言うほかなかった。
- 祖母が選んだ二枚の着物はどちらも品があり、何れ菖蒲か杜若で、祝いの日に着る一枚を決められなかった。
- 新商品の二つの案は、使いやすさと見た目のよさがともに優れ、会議では何れ菖蒲か杜若の評価になった。
- 友人二人の手作り弁当は、味も盛りつけもすばらしく、何れ菖蒲か杜若で優劣をつけにくかった。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・『太平記』14世紀後半ごろ成立。
・『源平盛衰記』14世紀ごろ成立。
・無住『沙石集』13世紀後半成立。
・『万葉集』8世紀後半成立。
・『伊勢物語』10世紀ごろ成立。























