【ことわざ】
牛を馬に乗り換える
【読み方】
うしをうまにのりかえる
【意味】
劣ったほうや不利なほうをやめ、優れたほう、自分にとって都合のよいほうへ移ることのたとえ。


【英語】
・trade up(今あるものを、より価値の高いものに替える)
【類義語】
・牛売って馬を買う(うしうってうまをかう)
【対義語】
・馬を牛に乗り換える(うまをうしにのりかえる)
「牛を馬に乗り換える」の語源・由来
「牛を馬に乗り換える」は、歩みの遅い牛を捨て、速く走る馬に乗り換えるという具体的な姿をもとにしたことわざです。そこから、劣ったものや不利な立場を離れ、より優れたものや好都合な側へ移ることを表すようになりました。
牛と馬は、ともに人や荷物を運ぶために用いられてきましたが、ことわざの世界では、牛は歩みの遅いもの、馬は速く機敏なものとして対比されます。この違いが、手段・能力・立場などの優劣を表す比喩となっています。
ここでいう「乗り換える」は、実際に乗り物を替えることだけを指すのではありません。仕事の方法、所属する側、付き合う相手などを、自分にとって有利なものへ替えることを表します。
現在の形に近い古い用例は、『鷹筑波集(たかつくばしゅう)』に出てきます。同書は、西武が編んだ五巻の俳諧撰集で、1638年に松永貞徳の序が置かれ、1642年に刊行された江戸時代前期の書物です。
『鷹筑波集』巻五には、「牛を馬にぞのりかへにける」とあります。その句は、百姓が武家に仕えて知行(ちぎょう:領地や俸禄として与えられるもの)を受ける姿と結び付けられており、以前よりも有利な立場へ移ることを、牛から馬への乗り換えにたとえています。
この用例では、牛と馬は単なる動物ではなく、身分や暮らし向きの違いを表す働きをもっています。江戸時代前期にはすでに、条件の劣る状態から優れた状態へ移るという比喩的な意味で使われていたことが分かります。
古い表記では、「乗り換える」を「のりかへる」と書きました。また、辞書類では「乗り替える」という表記も用いられますが、いずれも今までのものをやめて、別のものへ移るという意味に変わりはありません。
このことわざは、単に道具や方法を改良する場合だけでなく、人間関係にも使われてきました。三代目三遊亭円遊の落語『不貞妻』(1892年)では、働かない夫を見限り、別の男性と一緒になろうとする女性が、「牛を馬に乗り替えるつもり」と語ります。
このように、連れ合いや恋人を捨て、より好ましいと思う相手へ移る場面にも、多くの用例があります。その場合は、よりよい選択をするというだけでなく、相手を自分の利益によって取り替えるという、批判的なニュアンスを伴います。
よく似た言い方に「牛売って馬を買う」があります。こちらも、遅い牛を手放して速い馬を得ることから、劣ったものを捨てて優れたものを選ぶことを表します。
反対の意味を表すのが「馬を牛に乗り換える」です。これは、速い馬を捨てて遅い牛を選ぶことから、優れたものを捨てて劣ったものに替えることをいい、『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期、太田全斎著)にも収められています。
こうして「牛を馬に乗り換える」は、劣った手段を優れた手段へ改めることと、利益を求めて都合のよい側へ移ることの両方を表すようになりました。前後の文脈によって、賢明な変更を評価する言葉にも、調子よく有利な側へ移る態度を皮肉る言葉にもなります。
「牛を馬に乗り換える」の使い方




「牛を馬に乗り換える」の例文
- 作業の遅い旧式の機械をやめて新型を導入したのは、まさに牛を馬に乗り換えるような改善だった。
- 彼は形勢が悪くなると仲間を離れ、有力な側へ牛を馬に乗り換えるように移った。
- 会社は利益の出ない事業を整理し、成長分野へ牛を馬に乗り換える決断をした。
- 移動時間を短くするため、各駅停車から特急へ牛を馬に乗り換えることにした。
- 選手が不振のチームを捨てて優勝候補へ移る姿を、記者は牛を馬に乗り換えるようだと評した。
- 条件のよい取引先が現れるたびに牛を馬に乗り換える態度では、長い信頼関係を築けない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・西武編『鷹筑波集』1642年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・三代目三遊亭円遊『不貞妻』1892年。























