【故事成語】
瓜田に履を納れず
【読み方】
かでんにくつをいれず
【意味】
瓜畑で履物を直すと瓜を盗むように疑われることから、人に疑われるような行いは避けよというたとえ。


【英語】
・avoid the appearance of impropriety.(不正らしく見えることも避ける)
・be above suspicion.(疑いを受けない状態にある)
【類義語】
・李下に冠を正さず(りかにかんむりをたださず)
・瓜田李下(かでんりか)
「瓜田に履を納れず」の故事
「瓜田に履を納れず」は、中国の古い詩に出てくる「瓜田不納履」という句にもとづく故事成語です。瓜畑で履物を直そうとして身をかがめると、瓜を盗んでいるように疑われるため、そのような動作を避けよという意味を表します。
この表現のもとにある「瓜田」は瓜畑、「履」は履物を指します。「納れず」は、履物を直す、または履き直す動作をしないという意味で受け取られ、疑われるような姿勢をとらないことにつながります。
原典としてよく知られるのは、古楽府(こがふ)の「君子行(くんしこう)」です。そこには「君子防未然、不處嫌疑閒、瓜田不納履、李下不正冠」とあり、立派な人は災いを未然に防ぎ、疑いを招く場所に身を置かない、という考えが述べられています。
この四句をやさしく言えば、君子は問題が起きる前に用心し、疑われるような場面を避け、瓜畑では履物を直さず、すももの木の下では冠を直さない、という意味です。瓜やすももを盗んでいなくても、そう見える動作そのものを慎むところに、この言葉の大切な点があります。
「君子行」は、『文選(もんぜん)』に収められて伝わった詩として扱われます。『文選』は、中国南朝梁の昭明太子蕭統らが撰した総集で、六世紀前半に成立し、周から梁に至る詩文を集めた書物です。
また、「君子行」は、北宋の郭茂倩が編んだ『楽府詩集(がふししゅう)』にも関わる形で伝えられています。『楽府詩集』は、上古から唐・五代までの楽府や歌謡を集めた全100巻の総集で、楽府文学を知るうえで重要な書物です。
同じ考えは、前漢の劉向が編んだとされる『列女伝(れつじょでん)』にも近い形で出てきます。『列女伝』には「瓜田を経て履を納れず、李下に過ぎりて冠を整へず」に当たる内容があり、この戒めが古くから知られた言い方であったことを示しています。
ここで対になっている「李下に冠を正さず」は、すももの木の下で冠を直そうとして手を上げると、実を盗むように疑われるため、そのような行いは避けよという意味です。「瓜田に履を納れず」と「李下に冠を正さず」は、どちらも疑いを招く行動を慎む教えとして一組で広まりました。
日本語では、「瓜田に履を納れず」のほか、「瓜田に履を納めず」「瓜田に履をなおさず」などの形も伝わります。さらに、「瓜田」と「李下」を合わせた「瓜田李下」という四字の形もあり、人に疑われるようなまぎらわしいことをするな、という意味で用いられます。
古い日本の用例としては、『文明本節用集』(室町時代中期)にも見える言葉です。漢籍の句が日本でも受け入れられ、疑われる行為を避けるべきだという戒めとして、後の時代まで使われるようになりました。
この故事成語は、実際の瓜畑だけをいうものではありません。現代では、金品の近くで不用意に手を動かす、審査する立場で親しい人を特別扱いする、秘密の資料を一人で扱うなど、正しくても疑われやすい行動を避ける場面に用います。
「瓜田に履を納れず」の使い方




「瓜田に履を納れず」の例文
- 会計係の兄は、瓜田に履を納れずと考え、集金袋を一人だけで開けないようにした。
- 友人の財布が机に置いてあったので、瓜田に履を納れずと思い、手を触れずに本人を呼んだ。
- 審査員を務める父は、瓜田に履を納れずの心がけで、知り合いの作品については採点から外れた。
- 放課後の教室に高価なカメラが残っていたため、瓜田に履を納れずと考えて先生に知らせた。
- 会社の担当者は、瓜田に履を納れずの姿勢で、取引先から個人的な贈り物を受け取らなかった。
- 候補者の親族だけを手伝うと誤解されるため、委員長は瓜田に履を納れずと自分の行動を慎んだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・蕭統編『文選』6世紀前半。
・郭茂倩編『楽府詩集』北宋。
・劉向『列女伝』前漢。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























