【ことわざ】
転ばぬ先の杖
【読み方】
ころばぬさきのつえ
【意味】
失敗や困ったことが起こる前に、あらかじめ用心して準備しておくことのたとえ。また、そのために用意しておくもの。


【英語】
・Prevention is better than cure(予防は治療にまさる)
【類義語】
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
・濡れぬ先の傘(ぬれぬさきのかさ)
【対義語】
・泥棒を見て縄を綯う(どろぼうをみてなわをなう)
「転ばぬ先の杖」の語源・由来
「転ばぬ先の杖」は、文字どおりには、つまずいて転ぶ前に、あらかじめ杖をついておくという身近な動作から生まれた言い方です。杖は、足もとが不安定な道を歩くとき、体を支え、転ばないように助ける道具です。そのため、転んでから杖を探すのでは遅く、危ない目にあう前に備えておくことが大切だ、という考えがこの表現の中心にあります。
このことわざは、中国の古い人物や出来事に由来する故事成語ではなく、日本語の暮らしの感覚から育ったことわざとして理解できます。実際の「転ぶ」「杖をつく」という具体的な場面が、しだいに「失敗する」「前もって用意する」という広い意味へ移っていった表現です。
古い用例として大切なのが、人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)『伊賀越道中雙六(いがごえどうちゅうすごろく)』(1783年・江戸時代後期、近松半二・近松加作作)に出てくる形です。この作品は天明3年、つまり1783年に刊行され、本文末に近松半二・近松加作の名が記されています。
『伊賀越道中雙六』の八段目には、「此様に意見するも、転(コロ)ばぬ先の杖とやら」という用例が出てきます。ここでの「意見」は、相手を責めるためではなく、あとで困ったことにならないように前もって忠告することを表します。つまり、この時点で「転ばぬ先の杖」は、実際の歩行の杖だけでなく、人間関係や生活上の失敗を防ぐための用心を表す言い方として使われています。
表記には、「転ばぬ先の杖」のほか、「転ぬ先の杖」のような形もあります。どちらも、「転ぶ」という失敗が起こる前に、「杖」という支えを用意しておくという考え方を土台にしています。表記に少し違いがあっても、意味の中心は変わりません。
後の用法では、「杖」は実際の道具というより、保険、予備の道具、計画、確認、連絡など、危険を避けるための備え全般を表すようになりました。たとえば、急なけがに備える保険を「転ばぬ先の杖」と言うように、現代では「万一のときに安心できるよう、先に手を打つこと」という意味で使われます。
このように、「転ばぬ先の杖」は、もともとの具体的な動作から、生活全体に通じる教えへ広がったことわざです。失敗してから悔やむよりも、失敗しないように考え、準備しておくほうがよいという、今でも日常生活に生きている考えを表しています。
「転ばぬ先の杖」の使い方




「転ばぬ先の杖」の例文
- 地震に備えて水や懐中電灯を用意しておくのは、転ばぬ先の杖だ。
- 発表の前日に資料を印刷しておけば、転ばぬ先の杖になる。
- 旅行先で困らないよう保険に入っておくのは、転ばぬ先の杖と言える。
- 大事な試合の前に靴ひもを替えておいたのは、転ばぬ先の杖だった。
- 会社では情報を失わないよう、転ばぬ先の杖として毎日データを保存している。
- 冬道を歩く前に滑りにくい靴を選ぶことは、転ばぬ先の杖である。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社編『会話で使えることわざ辞典』集英社。
・近松半二・近松加作『伊賀越道中雙六』1783年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press。























