【ことわざ】
穴を掘って言い入る
【読み方】
あなをほっていいいる
【意味】
人に言えない悲しみ・悔しさ・悩みなどを、穴の中へ思い切り言って埋め、気持ちを少し楽にすること。


【英語】
・get something off one’s chest.(長く心配していたことを話して、不安を軽くする)
【類義語】
・胸襟を開く(きょうきんをひらく)
・腹を割る(はらをわる)
・吐露(とろ)
【対義語】
・胸に秘める(むねにひめる)
・口をつぐむ(くちをつぐむ)
「穴を掘って言い入る」の語源・由来
「穴を掘って言い入る」は、人に話せない悲しみや煩わしさを、土に掘った穴へ思い切り言い、あとを埋めることで心を慰める、という発想をもつことわざです。ここでの「穴」は、秘密を受け止めてくれる相手のように描かれていますが、実際には人ではないため、聞かれる心配のない場所として働きます。
このことわざの中心にあるのは、「言ってはいけないこと」ではなく、「言わずにはいられないこと」です。胸の中にしまいこんだ悲しみ、悔しさ、不満は、だれかにそのままぶつけると相手を傷つけたり、問題を大きくしたりすることがあります。そこで、穴に向かって言い入れるという形によって、秘密を守りながら気持ちを外へ出すという筋道が生まれます。
この発想を理解するうえで、ギリシア・ローマのミダス王の説話は、よく似た形をもつ代表的な話です。オウィディウス『変身物語』第11巻では、ミダス王がアポロンを怒らせ、耳をロバの耳に変えられます。王はその耳を隠しますが、髪を切る召使いだけは秘密を知ってしまいます。
召使いは、王の秘密を人に話すことはできません。しかし、胸の中にしまっておくことにも耐えられません。そこで地面に浅い穴を掘り、小さな声で、主人の耳の秘密をその穴へ言い入れます。そして、掘り返した土で穴を埋め、何もなかったように立ち去ります。
この話では、やがてその場所にヨシが生え、風が吹くたびに、召使いが穴へささやいた言葉をくり返します。つまり、秘密を穴に埋めたはずなのに、自然の声のようになって外へ広がってしまうのです。ヨシの項目でも、ミダス王の秘密を知った髪結師が穴を掘ってささやき、あとを埋めたところ、その上に生えたヨシが秘密を口外したという筋が伝えられています。
ただし、「穴を掘って言い入る」は、秘密が最後に広まることよりも、言えない思いを穴へ向けて吐き出す動作そのものに重点を置く言い方です。人に聞かせるための発言ではなく、胸の中にたまった重さを少しでも軽くするための発言として受け止めると、ことわざの意味が分かりやすくなります。
現在の使い方では、実際に穴を掘る場面だけを指すのではありません。だれにも言えないつらさや不満を、自分だけの場所で声に出したり、紙に書いたりして心を落ち着かせるような場面にも重ねて考えられます。とはいえ、問題の解決そのものを表すことわざではなく、まず気持ちを外へ出して慰めることをいう表現です。
「穴を掘って言い入る」の使い方




「穴を掘って言い入る」の例文
- 友だちに言えない悔しさを抱え、彼は穴を掘って言い入るようにノートへ思いを書き出した。
- 家族に心配をかけたくなくて、母は庭先で穴を掘って言い入るように小さく不満をこぼした。
- 試合での失敗を責められず、健太は穴を掘って言い入る気持ちで一人だけの反省文を書いた。
- 職場で理不尽な注意を受けた彼女は、帰り道に穴を掘って言い入るように胸の内を独り言にした。
- 秘密を守らなければならない苦しさから、少年は穴を掘って言い入ることを想像して気持ちを静めた。
- 穴を掘って言い入るだけでは問題は解決しないが、言葉にすることで心の重さが少し軽くなることもある。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・平凡社『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・オウィディウス『変身物語』紀元8年ごろ。























