【ことわざ】
貝殻で海を干す
【読み方】
かいがらでうみをほす
【意味】
小さな貝殻で海水をくみ出しても海を干せないことから、到底できないこと、また努力しても効果が出にくい無駄なことのたとえ。


【英語】
・a Sisyphean task(終わりなく続き、効果が出にくい仕事)
【類義語】
・蛤で海をかえる(はまぐりでうみをかえる)
・蠡測(れいそく)
・貝殻で海を測る(かいがらでうみをはかる)
「貝殻で海を干す」の語源・由来
「貝殻で海を干す」は、小さな貝殻で海水をくみ出し、大きな海を空にしようとする様子からできたことわざです。貝殻はほんの少しの水しかすくえないため、海全体を干すことはできません。そこから、目的に対して方法があまりにも小さく、努力しても成果が出ないことを表すようになりました。
この表現の背景には、古くから伝わる「小さな器で大きな海をどうにかしようとする」たとえがあります。中国の歴史書『漢書』(後漢、班固著)には、東方朔の伝に「以筦闚天、以蠡測海、以筳撞鐘」という言葉が出てきます。これは、管で天をのぞき、蠡で海を測り、細い茎で鐘を突くようなもので、ものごとの筋道や大きさを十分に知ることはできない、という意味に通じます。
このうち「以蠡測海」は、のちに「蠡を以て海を測る」「貝殻で海を測る」という言い方につながりました。「蠡」は、巻き貝の貝殻と解く場合も、ひさごのような小さな器と解く場合もありますが、どちらの場合も、海の大きさに対して器があまりに小さいという点が大切です。
日本語では、「貝殻で海を測る」は、小さな貝殻で海水をくみ、海水の量を測ろうとすることから、狭い見識だけで大きな問題を論じることのたとえとして使われます。ここでは、「海を測る」という行為が、ものごとの大きさを見誤る浅はかさを表しています。
一方、「貝殻で海を干す」は、「測る」よりもさらに結果の不可能さを強く表します。貝殻で海水をくみ出しても、海を空にすることはできません。そのため、このことわざでは、見識の狭さよりも、とうてい成し遂げられないことや、効果の出ない無駄な努力という意味が前に出ます。
似た形として、「蛤で海をかえる」という言い方も伝わっています。近松門左衛門作の浄瑠璃『釈迦如来誕生会』(1714年・江戸時代中期)には、「蠡にて海をかへ」という形の例があり、俗世の束縛を離れようとすることの難しさを、蛤の貝殻で海をどうにかしようとする不可能さになぞらえています。
また、『惺窩文集』(1627年序、藤原惺窩著・林道春編彙)には「蠡測」の古い用例があり、この系統の言葉が日本でも漢文の教養を通じて早くから受け入れられていたことが分かります。そこから、漢文風の「蠡測」や「蠡を以て海を測る」に加え、より分かりやすい和語の形として、「貝殻で海を測る」「貝殻で海を干す」のような言い方が広がったと考えられます。
現在の「貝殻で海を干す」は、ただ大きなことに挑戦することを責める表現ではありません。大きな目標に対して、方法や準備があまりにも足りないときに使います。つまり、努力そのものではなく、目的と手段のつり合いが取れていないことを戒めることわざです。
「貝殻で海を干す」の使い方




「貝殻で海を干す」の例文
- 一人で町中の落書きを一日で消そうとするのは、貝殻で海を干すような計画だ。
- 資料も人手もないまま全国調査を終わらせようとしても、貝殻で海を干すに等しい。
- 小さな貯金箱の小銭だけで校舎を建て替えるという話は、貝殻で海を干すようなものだ。
- 壊れた機械を部品も工具もなしに直すのは、貝殻で海を干す努力になってしまう。
- 三日で全員の意見を一人で聞き取るのは、貝殻で海を干すほど無理のある仕事だ。
- 大きな問題を解決するには、貝殻で海を干すような方法ではなく、人数と時間をそろえる必要がある。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・班固『漢書』後漢。
・藤原惺窩著、林道春編彙『惺窩文集』1627年序。
・近松門左衛門『釈迦如来誕生会』1714年。























