【ことわざ】
水母の風向かい
【読み方】
くらげのかぜむかい
【意味】
強い相手や避けられない成り行きに逆らっても、力が及ばず、抵抗が無駄に終わることのたとえ。


【類義語】
・蟷螂の斧(とうろうのおの)
【対義語】
・一念岩をも通す(いちねんいわをもとおす)
「水母の風向かい」の語源・由来
「水母の風向かい」は、水面近くを漂う水母が、風の吹いてくる方向へ進もうとしても、思うように進めない姿から生まれたことわざです。水母は、傘のような体を開いたり閉じたりして多少は動けますが、多くは潮流に運ばれながら漂います。そのため、風や流れに逆らう水母の姿が、力の及ばない抵抗を表すたとえになりました。
「くらげ」という言葉そのものは、非常に古くから日本語で用いられています。『古事記(こじき)』(712年・奈良時代)には、天地が生まれたばかりのころの国土について、「久羅下なすただよへる時」とあります。まだ形の定まらない国土が、水母のようにふわふわと漂っていたという意味です。
この『古事記』の一節に、現在のことわざそのものが出てくるわけではありません。しかし、水母が古くから「水中を漂い、行く先の定まりにくいもの」のたとえとして使われていたことが分かります。自分の力で力強く進む魚とは異なる水母の姿が、後に「大きな力に逆らえないもの」という発想へ結びつく土台となりました。
『枕草子(まくらのそうし)』(10世紀末ごろ成立・平安時代)にも、「くらげ」という言葉が出てきます。こうした古い用例から、水母が早い時代から人々によく知られ、その柔らかな体や、水中を漂う姿が強く印象づけられていたことがうかがえます。
「水母」は、くらげを表す漢字表記の一つです。「風向かい」は、進もうとする方向から風を受けることを指します。したがって「水母の風向かい」は、流されやすい水母が、あえて向かい風の中を進もうとするという、かなう見込みのない動きを、一枚の絵のように表した言い方です。
少なくとも1998年には、「くらげの風向い」という仮名を交えた形で、魚に関することわざの一つとして記録されています。現在では、「水母の風向かい」という漢字を用いた形も見出しとして使われており、両者は表記が異なるだけで、示す意味は同じです。
このことわざは、努力することそのものを否定する言葉ではありません。相手との力の差があまりに大きい場合や、人の力では変えにくい成り行きに正面から逆らう場合に、その抵抗がむなしく終わることを表します。水母が風上を目指しても押し流される姿から、無理に立ち向かうよりも、方法や時機を考える必要があることを伝えることわざとして定着しました。
「水母の風向かい」の使い方




「水母の風向かい」の例文
- 二人だけで六年生の選抜チームに正面から挑むのは、水母の風向かいだった。
- 家族全員が決めた旅行日程を、一人で理由もなく覆そうとするのは水母の風向かいだ。
- 暴風警報が出ているのに運動会を予定どおり開こうとするのは、水母の風向かいに等しい。
- 準備も資金もない小さな会社が巨大企業と値下げ競争を続ければ、水母の風向かいとなる。
- 圧倒的な兵力差を無視した正面攻撃は、水母の風向かいに終わった。
- 百人が賛成した決定を、理由も示さず一人で覆そうとするのは水母の風向かいだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・二階堂清風編著『釣りと魚のことわざ辞典』東京堂出版、1998年。
・『古事記』712年。
・『枕草子』10世紀末ごろ成立。























