【故事成語】
屋下に屋を架す
【読み方】
おくかにおくをかす
【意味】
すでに十分にできているものへ同じようなものを重ね、不必要で無益なことをするたとえ。


【英語】
・reinvent the wheel(すでにあるものを改めて作り、時間や労力を無駄にする)
【類義語】
・屋上屋を架す(おくじょうおくをかす)
「屋下に屋を架す」の故事
「屋下に屋を架す」の古い形は、中国の逸話集『世説新語(せせつしんご)』(南朝宋、5世紀、劉義慶撰)の「文学」に出てきます。『世説新語』は、後漢末から東晋までの人々の言葉や行動を、三十六の項目に分けて集めた書物です。
物語の舞台は、4世紀の東晋です。文人の庾闡(ゆせん)は、都の様子を題材にした『揚都賦(ようとのふ)』を作り、親族に当たる政治家の庾亮(ゆりょう)に見せました。
「賦(ふ)」は、対句や韻を多く用いて、物事を詳しく描き表す漢文の文体です。庾闡の作品も、都の繁栄や風物を華やかに描いた文章でした。
庾亮は親族への思いもあって、『揚都賦』を、張衡の『二京賦』や左思の『三都賦(さんとのふ)』に続く名作のように高く評価しました。その評判が広まると、人々は競って作品を書き写し、都では紙の値段が上がるほどになりました。
しかし、東晋の政治家である謝安(しゃあん)は、その評判に同意しませんでした。謝安は「此れは是れ屋下に屋を架するのみ」と述べ、屋根の下に、さらに屋根を作るような作品にすぎないと批評しました。
謝安は続けて、『揚都賦』は一つ一つの事柄を先人の作品にならっており、狭く小さな内容から抜け出していないと指摘しました。ここでの「屋下に屋を架す」は、前人の名作をまねただけで、新しさや独自の価値に乏しいことを表しています。
この逸話では、単に手間を掛けすぎたことを批判しているのではありません。すでに優れた作品があるのに、同じ仕組みや内容の作品をもう一つ重ねても、新しい価値は生まれないという文学上の批評が込められています。
この表現は、のちに顔之推が子孫への教えをまとめた『顔氏家訓(がんしかくん)』(隋、600年ごろ成立)の「序致」にも出てきます。顔之推は、魏・晋以来の書物には、同じ道理や出来事を重ね、互いにまねたものが多いと述べました。
その箇所には、「屋下架屋、牀上施牀」とあります。「屋根の下に、さらに屋根を作り、寝台の上に、さらに寝台を置くようなものだ」という意味で、同じ内容を繰り返す無益さを、二つのたとえを並べて強く表しています。
『世説新語』では、先人をまねた新味のない作品への批評として使われました。一方、『顔氏家訓』では、同じ道理や内容を重ねる書物全般への批判となり、その意味は、より広いものになっています。
日本語では、「屋下に屋を架す」のほかに、「屋上に屋を架す」「屋上屋を架す」という形も用いられるようになりました。「屋下」と「屋上」の違いはありますが、すでにあるものに同じものを重ねるという、たとえの仕組みは共通しています。
永井荷風の「申訳」(1927年)には、すでに多く語られているカフェーについて改めて文章を書くことを、「屋下に屋を架する笑いを招く」と表した用例があります。この段階では、同じ題材を後から重ねて論じる無益さを表す言い方として、日本語に定着していました。
このように、「屋下に屋を架す」は、もとは独創性のない文章を批評した言葉でした。現在では、同じ説明を繰り返すことや、十分に整った仕組みに不要な制度を加えることなど、価値を生まない重複を広く表す故事成語として用いられます。
「屋下に屋を架す」の使い方




「屋下に屋を架す」の例文
- すでに詳しい説明書があるのに、同じ内容の冊子を作るのは、屋下に屋を架すようなものだ。
- 完成した規則に役割の重なる決まりを加えれば、屋下に屋を架すことになる。
- 先人の研究を言い換えただけの論文は、屋下に屋を架すとの批判を受けた。
- 母の注意だけで十分なのに、家族全員が同じ小言を繰り返しては、屋下に屋を架すに等しい。
- 同じ機能をもつ二つの係を新設する案は、屋下に屋を架すとして退けられた。
- 資料の要点をまとめた後で同じ説明を付け足すのは、屋下に屋を架す結果となる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第10版』Oxford University Press、2020年。
・劉義慶撰『世説新語』南朝宋、5世紀。
・顔之推『顔氏家訓』隋、600年ごろ成立。
・永井荷風「申訳」1927年。























