【故事成語】
当たらずと雖も遠からず
【読み方】
あたらずといえどもとおからず
【意味】
ぴったり当たってはいないが、見当が大きく外れてもいないさま。ほぼ当たっていること。


【英語】
・not too far off the mark(それほど的外れではない)
・not exactly but close enough(完全ではないが、十分に近い)
・a fair guess(まずまず妥当な推測)
【類義語】
・好い線を行く(いいせんをいく)
【対義語】
・見当違い(けんとうちがい)
・的外れ(まとはずれ)
「当たらずと雖も遠からず」の故事
この故事成語のもとの形は、中国古典の『大学(だいがく)』にある「心誠求之、雖不中不遠矣」です。『大学』はもと『礼記(らいき)』の一篇で、のちに朱熹によって整えられ、『論語』『孟子』『中庸』とともに四書の一つとして重んじられるようになりました。
『大学』では、自分の身を修め、家を整え、国を治め、天下を安らかにするという、修養から政治へ広がる考え方が説かれています。その中で「国を治めるには、まず家を整えることが大切である」という流れに続いて、『書経(しょきょう)』の「康誥(こうこう)」にある「赤子(せきし)を保つが如し」という言葉が引かれます。
この場面でいう「赤子を保つが如し」とは、赤ん坊を守り育てるような心で人々に向き合うという意味です。続く「心誠求之、雖不中不遠矣」は、まごころをもって相手の求めるものを考えれば、完全にぴたりと当たらなくても、大きく外れることはない、という意味で用いられています。
ここでの「中」は、的に当たる、または中心に合うという意味をもつ字です。そのため、もとの言い方は「中らずと雖も遠からず」であり、現在の日本語では「当たらずと雖も遠からず」という表記も広く用いられています。
この故事成語は、はじめから単なるクイズや予想の言葉として生まれたものではありません。もとは、政治を行う人が人々の心を思いやるとき、完全に正解を言い当てることはできなくても、真心があれば本筋から大きく外れない、という教えの中で使われた表現です。
その後、日本語では、政治や修養の文脈から離れて、推測・判断・説明などが「完全な正解ではないが、かなり近い」という意味で使われるようになりました。明治18〜19年に刊行された坪内逍遙の『当世書生気質(とうせいしょせいかたぎ)』にも、茶屋への不義理や金銭の無心をめぐる推測について、完全ではないが大きく外れてはいないという意味で、この故事成語が使われています。
つまり「当たらずと雖も遠からず」は、古典では「真心をもって求めれば本筋から遠く外れない」という教えを表し、現代では「細部は違っても、見当としてはかなり近い」という意味で定着した故事成語です。単に「惜しい答え」というだけでなく、考え方の方向が正しい場合に使うと、意味が自然に伝わります。
「当たらずと雖も遠からず」の使い方




「当たらずと雖も遠からず」の例文
- 友人の推理は犯人の名前を外したが、動機の見立ては当たらずと雖も遠からずだった。
- 天気の予想は雨の降る時間が少し違ったものの、当たらずと雖も遠からずといえる内容だった。
- 先生の講評は細部まで正確ではないが、作品の弱点を当たらずと雖も遠からずで指摘していた。
- 会議で出した売上予測は数字こそ違ったが、市場の流れについては当たらずと雖も遠からずだった。
- 母の見立ては病名までは当たらなかったが、早めに受診すべきという判断は当たらずと雖も遠からずだった。
- その歴史説明は年号を取り違えていたが、出来事の大きな流れは当たらずと雖も遠からずだった。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・平凡社『世界大百科事典 改訂新版』平凡社。
・アルク『英辞郎 on the WEB』アルク。
・『礼記』。
・『書経』。
・朱熹『四書章句集注』。
・坪内逍遙『当世書生気質』1885〜1886年。























