【ことわざ】
暗がりから牛
【読み方】
くらがりからうし
【意味】
物の区別がつかず、全体の様子がはっきりしないことのたとえ。また、動作が鈍く、はきはきしないことのたとえ。


【類義語】
・暗がりから牛を引き出す(くらがりからうしをひきだす)
・暗闇から牛を引き出す(くらやみからうしをひきだす)
・闇から牛を引き出す(やみからうしをひきだす)
【対義語】
・一目瞭然(いちもくりょうぜん)
「暗がりから牛」の語源・由来
「暗がりから牛」は、暗い場所から黒い牛を引き出す光景をもとにしたことわざです。黒い牛の姿は暗闇に紛れやすく、どこまでが牛で、どこからが周囲の闇なのか、その輪郭をすぐには見分けられません。この分かりにくさから、物の違いや全体の様子がはっきりせず、区別のつかないことを表すようになりました。
この表現には、もう一つ、動作が鈍く、はきはきしないという意味があります。牛は動きの遅い動物としてたとえに使われることがあり、その牛を見通しのきかない暗がりから連れ出せば、いっそうのろのろとして、なかなか前へ進まない様子が思い浮かびます。そこから、人の動作や受け答えがぐずぐずしている場合にも用いられるようになりました。
古い用例は、井原西鶴の浮世草子(うきよぞうし)『西鶴置土産(さいかくおきみやげ)』(1693年・江戸時代前期、井原西鶴著)巻五に出てきます。この作品は、西鶴が亡くなった後の元禄6年(1693年)冬、弟子の北条団水が遺された原稿を編集し、五巻の本として刊行したものです。
『西鶴置土産』には、「まことに闇がりから牛を引き出すごとくに」とあります。そのあとには、気持ちよく眠っている人を起こしても、なかなか目を覚まさない様子が続きます。ここでは、暗闇の中から牛を動かすように、起こされる人の反応が鈍く、動作がぐずぐずしていることを表しています。
この古い用例で使われているのは、「暗がりから牛を引き出す」という長い言い回しです。「引き出す」という動作まで含むため、暗い所にいる牛を前へ進ませようとしても、思うように動かない様子が具体的に伝わります。そのため、古い用例では、区別のつきにくさだけでなく、動作の鈍さを表す意味がはっきりと表れています。
一方、「暗い所に黒い牛がいると何が何やら分からない」という光景そのものからは、物の形や違いを見分けにくいという意味が生まれます。同じ一つの光景から、「見ても区別がつかないこと」と、「動かそうとしても鈍く、はきはきしないこと」という二つの意味が引き出されたのです。
のちには、「引き出す」を省いた「暗がりから牛」という短い形も、独立したことわざとして用いられるようになりました。ほかにも、「暗がりの牛」「暗闇から牛を引き出す」「闇から牛を引き出す」「闇の夜の牛」などの言い方があり、暗さと黒い牛との組み合わせを保ちながら、形を変えて伝わっています。
現在の「暗がりから牛」は、単に暗い場所を表すことわざではありません。二つの物がよく似ていて違いが分からない場合、話の内容や物事の輪郭がぼんやりしている場合、また、人の行動や返事が鈍く、きびきびしない場合に使います。暗闇に紛れる黒い牛の姿を通して、見分けにくさと動作の鈍さを巧みに表したことわざです。
「暗がりから牛」の使い方




「暗がりから牛」の例文
- よく似た二つの設計図には説明がなく、暗がりから牛で、どちらが新しい案なのか見分けられなかった。
- 兄弟が同じ服装で並んでいたため、遠くから見ると暗がりから牛のようで区別がつかなかった。
- 話し合いの結論が曖昧なままでは暗がりから牛で、次に何をすべきか誰にも分からない。
- 寝起きの弟は暗がりから牛で、何度呼んでも、のろのろと布団から出てきた。
- 質問するたびに返事を濁す担当者の態度は、暗がりから牛のようにはきはきしなかった。
- 商品の違いを示す表示が一つもなく、売り場は暗がりから牛の状態になっていた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 全三巻』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・井原西鶴著、北条団水編『西鶴置土産』1693年。
・石上敏「暗越奈良街道と芭蕉―東大阪市における文化の論として―」『大阪商業大学論集』第16巻第2号、2020年。























