【故事成語】
金が唸る
【読み方】
かねがうなる
【意味】
あり余るほど多くの金銭を持っていること。金銭をたくさん蓄えていることのたとえ。


【英語】
・be rolling in money.(非常に裕福である)
・have money to burn.(使い切れないほど金がある)
【類義語】
・大金持ち(おおがねもち)
・億万長者(おくまんちょうじゃ)
・金満家(きんまんか)
【対義語】
・貧乏(びんぼう)
「金が唸る」の故事
「金が唸る」は、中国の明代末期にまとめられた随筆集『五雑俎(ござっそ)』の「事部四」に出てくる話にもとづく故事成語です。『五雑俎』は謝肇淛の著作で、天・地・人・物・事の五部に分け、古今の文献や見聞にもとづく多くの話題を記した十六巻の書物です。
『五雑俎』の「事部四」には、五代の袁正辞という人物が、銭を部屋いっぱいに積んでいたという話が出てきます。原文には「五代袁正辭積錢盈室」とあり、袁正辞が銭を積み上げ、部屋を満たしていたことを表しています。
すると、その部屋の中から、牛のような低いうなり声が聞こえました。人々はそれを不気味なことだと考え、積んだ銭を散らして人に譲るように袁正辞へ勧めました。
ところが袁正辞は、銭を手放そうとはしませんでした。彼は、物が声を出すのは同類を求めているからであり、もっと銭を加えれば声は止む、と答えたと記されています。
この話では、金銭があまりにも多く積み上げられ、まるで生き物のように声を出すものとして描かれています。「金が唸る」という言い方は、この「積み上げた銭が牛のようにうなる」という奇妙でこっけいな場面と深く結びついています。
「唸る」は、低く重い声を出すことを表す言葉です。金銭は本来声を出しませんが、山のように積まれた銭が、低く響くような音を立てると想像することで、あり余るほどの金を蓄えている様子が強く表されます。
日本語の古い用例としては、江戸時代中期の黄表紙『莫切自根金生木(きるなのねからかねのなるき)』(1785年、唐来参和作、喜多川千代女画)に「かねのうなる声をはじめてきいたが、なるほどウンウンといふの」とあります。黄表紙は江戸時代中期以後の草双紙の一つで、洒落・風刺・滑稽味を加えて世相を描く文芸でした。
『莫切自根金生木』は、金がありすぎて苦しむ大金持ちが、貧乏になろうとしてさまざまな手段を試すものの、失敗する話です。この作品の中で「金のうなる声」という表現が用いられていることから、江戸時代には、この言い方が笑いを含んで金持ちを描く表現として使われていたことが分かります。
この作品名は回文になっており、逆から読んでも同じになる趣向をもっています。内容も、普通なら欲しがるはずの金がありすぎて困るという逆転のおもしろさをもつため、「金が唸る」という表現は、ただ豊かであるだけでなく、少し大げさでこっけいな響きを伴って広まりました。
のちには、実際に金が音を立てるという話から離れ、「あり余るほど多く金銭を持っている」という意味で用いられるようになりました。人の財産、家の金庫、会社の資金などが非常に豊かであることを、印象強く言い表す表現として定着しています。
したがって、「金が唸る」は、金銭が山のように積まれ、牛のようにうなるという中国の奇談から、日本の近世文学における用例を経て、豊かな蓄財を表す言葉になった故事成語です。現在では、非常に多くの金を持っていることを、やや大げさに、また時に皮肉をこめて表すときに使われます。
「金が唸る」の使い方




「金が唸る」の例文
- あの実業家は、金が唸るほどの財産を築いた。
- 金が唸るような大企業でも、無駄な支出を続ければ経営は傾く。
- 祖父の知人は、若いころの商売で成功し、金が唸るほどの資産家になった。
- 金が唸るほどあるからといって、必ずしも幸せとは限らない。
- その財団は、金が唸るほどの基金を教育支援に使っている。
- 彼は金が唸るほどの家に生まれたが、地道に働くことを大切にした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・謝肇淛『五雑俎』明代末期。
・唐来参和『莫切自根金生木』1785年。
・HarperCollins Publishers『Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary.』
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary.























