【ことわざ】
いらつは恋の癖
【読み方】
いらつはこいのくせ
【意味】
恋をしていると、恋人に会うまでの時間が長く感じられ、会えない間にいらいらしやすいということ。


【英語】
・be impatient to see someone(人に早く会いたくて待ちきれない)
【類義語】
・恋は曲者(こいはくせもの)
・恋の重荷(こいのおもに)
・思う仲の小諍い(おもうなかのこいさかい)
【対義語】
・待てば海路の日和あり(まてばかいろのひよりあり)
「いらつは恋の癖」の語源・由来
「いらつは恋の癖」の「いらつ」は、気持ちが落ち着かず、いらいらすることに通じる言葉です。「苛つ」は、気持ちが落ち着かずいらいらする、いらだつ、また物事を早くするようにせきたてるという意味をもっています。
このことわざは、恋をしている人の心が、いつも穏やかでいられるわけではないことを表します。好きな人に会いたい、早く返事がほしい、相手の気持ちを確かめたいという思いが強くなると、待つ時間が実際よりも長く感じられ、心がせかされやすくなります。
古い用例として大切なのは、『心中二枚絵草紙(しんじゅうにまいえぞうし)』(1706年・江戸時代、近松門左衛門作)に出てくる形です。この作品は、別名を『評判心中二枚繪草紙』ともいい、宝永三年に刊行され、義太夫節の浄瑠璃として伝わっています。
『心中二枚絵草紙』は、近松門左衛門が市井の心中事件を題材にした人形浄瑠璃の流れの中に位置づけられる作品です。近松の世話物は、町の人々の恋、義理、家の事情、心の迷いを舞台にのせ、観客の心を強く動かしました。
その中に、「一期とおもふ女房を、わがもの顔の見にくさに、いらつは恋のくせなれど」とあります。「一期とおもふ」は、一生離れまい、死生を共にしようと思うという意味で、ここでは深く思う相手をめぐる強い感情の中に、「いらつは恋のくせ」という言い回しが出てきます。
この古い形では、現在の表記と少し違い、「恋のくせ」と仮名で書かれています。現代では「癖」の字を用いて「いらつは恋の癖」と書く形が一般に分かりやすく、恋をするといらいらしやすくなるという意味で使われています。
「癖」は、ある人や物事にしばしば現れる傾向を表します。そのため、このことわざの「恋の癖」は、恋をした人が必ず悪い性格になるという意味ではなく、恋をしているときに起こりやすい心の揺れを、やわらかくとらえた言い方です。
似た考え方をもつ言葉に、「恋は曲者」があります。これは、恋のために心が乱れ、思いがけないことをしでかすというたとえで、恋が人の判断や行動をふだんと違う方向へ動かすものとして表されています。
また、「恋の重荷」は、恋愛のためにつのる堪えがたい思いを、重い荷物を背負う苦しさにたとえた言葉です。「いらつは恋の癖」は、その苦しさの中でも、会えない時間や待つ時間に心が落ち着かなくなる面を取り出して表しています。
このことわざは、恋をからかっただけの軽い言葉ではありません。人を思う気持ちが強いほど、待つことや会えないことが心の負担になりやすい、という人間らしい心の動きを短く言い表しています。
現在使う場合は、相手を責める言葉としてではなく、恋をして心が落ち着かない様子を少し客観的にとらえる言葉として用いるのが穏やかです。いらいらしてしまう自分の心に気づき、相手を大切に思うなら、待つ時間の過ごし方も大切にしたい、という教えにもつながります。
「いらつは恋の癖」の使い方




「いらつは恋の癖」の例文
- 初めて好きな人からの返事を待つ姉は、いらつは恋の癖というように、夕方から何度も携帯電話を見ていた。
- 会える日が一週間先になっただけで落ち着かない友人を見て、いらつは恋の癖という言葉を思い出した。
- 遠距離の恋人から連絡がない夜、兄は何も手につかず、いらつは恋の癖そのものだった。
- 待ち合わせの時刻までまだ十分あるのに駅前を歩き回る彼の姿は、いらつは恋の癖を表していた。
- 文化祭の準備中も好きな人の返事が気になり続け、いらつは恋の癖で作業に集中できなかった。
- 相手の都合を考えず返事を急かしてしまうのは、いらつは恋の癖とはいえ、思いやりを忘れた態度になる。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近松門左衛門『心中二枚絵草紙』宝永三年(1706年)。
・鳥越文蔵ほか校注・訳『新編日本古典文学全集 75 近松門左衛門集 2』小学館、1998年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』。























