【ことわざ】
商人は木の葉も錦に飾る
【読み方】
あきんどはこのはもにしきにかざる
【意味】
つまらない品物でも、見ばえよく飾り、高価な品であるかのように見せて売るのが商人の腕前であるということ。


【英語】
・sell ice to Eskimos.(不要な物まで買う気にさせるほど売り込みがうまい)
【類義語】
・売り物には花を飾れ(うりものにははなをかざれ)
・売り物に紅させ(うりものにべにさせ)
【対義語】
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
・正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる
「商人は木の葉も錦に飾る」の語源・由来
このことわざは、商人の売り方の巧みさを、「木の葉」と「錦」という大きく離れたものの対比で表した言い方です。木の葉は樹木の葉を指し、また軽いもの、小さいものを表す言葉としても用いられます。
一方の錦(にしき)は、色糸で地色と文様を織り出した美しい織物を指し、美しいもの、立派なもののたとえにもなりました。つまり、このことわざでは、何でもない木の葉を、まるで高価で華やかな錦のように見せるという、少し大げさな比喩が用いられています。
「飾る」には、物を付けて美しく見えるようにする、立派にするという意味があります。さらに、実質に関係なく外観や言葉などを取り繕う意味もあるため、このことわざの「錦に飾る」は、ただ美しく整えるだけでなく、実際以上に立派なもののように見せる響きを持ちます。
「商人」は、商いを仕事とする人を指す言葉です。「あきんど」は「あきびと」から変化した読みで、古くから商売をする人を表す言い方として用いられてきました。
このことわざそのものは、中国古典の一つの故事から生まれたものではなく、日本で商売のあり方をたとえて言い表したものです。現在伝わる意味では、一見つまらなそうな品物でも、高価な品であるかのように見せて売ろうとする、これも商人の腕しだいだというたとえとして用いられます。
この発想に近い古いことわざに、「売り物には花を飾れ」があります。これは、売る品物は美しく見せよという意味で、売る物の見せ方が買い手の印象を左右するという考えを表しています。
「売り物には花を飾れ」は、『毛吹草(けふきぐさ)』(1645年・江戸時代前期、松江重頼著)に関係する古い言い方として伝わります。『毛吹草』は俳諧の作法、季語、俚諺(りげん:世間で言いならわされた言葉)などを収めた書物で、江戸時代前期には、売り物を美しく見せる発想がことわざとして広まっていたことが分かります。
また、商人を題材にしたことわざも、近世の初めにはすでに用いられていました。『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年・江戸時代初期、イエズス会宣教師ら編)には、日本語をポルトガル語で説明した語彙が収められ、当時の口語や用法を知る手がかりがあります。
その中には、関係の深い言い方として、「屏風と商人は直にては立たぬ」があります。屏風はまっすぐでは立ちにくく、商人も買い手の意に合わせなければ商売がうまくいかない、という意味で、商人の身のこなしや売り方をたとえる発想が早い時期から定着していたことを示しています。
この流れの中で見ると、「商人は木の葉も錦に飾る」は、売り物をただ並べるだけではなく、見ばえや言い方によって価値の印象を変えるという商売の知恵を、さらに強い対比で表したことわざといえます。木の葉と錦を並べることで、価値の低いものと高いものの差が一目で分かり、商人の見せ方の巧みさが印象深く伝わります。
ただし、このことわざは、商人をただほめるだけの言葉ではありません。つまらない品物を高価な品のように見せるという意味を含むため、買い手の側から見ると、見せ方や宣伝をそのまま信じてよいのか、少し用心する気持ちも含まれます。
したがって、現在の使い方では、単に飾りつけがきれいな場合にはあまり用いません。中身以上に立派そうに見える売り方、説明の巧みさ、包装や宣伝によって実際より高く見せる場面に使うと、このことわざの意味がよく生きます。
「商人は木の葉も錦に飾る」の使い方




「商人は木の葉も錦に飾る」の例文
- 土産物店の店主は、ありふれた石を美しい箱に入れて名産品のように売り、商人は木の葉も錦に飾るを思わせた。
- 商人は木の葉も錦に飾るというように、粗末な品でも説明と包装しだいで高級品に見えることがある。
- 広告の写真だけを見ると立派な商品に見えたが、実物は平凡で、商人は木の葉も錦に飾るという言葉が当てはまった。
- 祖母は、派手な宣伝に心を動かされる父に、商人は木の葉も錦に飾るものだと静かに忠告した。
- 新しい店は安い雑貨を美しく並べ、商人は木の葉も錦に飾ると言いたくなるほど見せ方がうまかった。
- 商人は木の葉も錦に飾るとはいえ、買い手をだますような売り方は長く信用を得られない。
主な参考文献
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・松江重頼『毛吹草』1645年。
・『日葡辞書』1603〜1604年。























