【ことわざ】
穴の端を覗く
【読み方】
あなのはたをのぞく
【意味】
墓穴のふちをのぞくほど、死期が近いことのたとえ。


【英語】
・have one foot in the grave(非常に年を取り、死が近い)
【類義語】
・穴端に腰をかける(あなばたにこしをかける)
・棺桶に片足を突っ込む(かんおけにかたあしをつっこむ)
「穴の端を覗く」の語源・由来
「穴の端」の「穴」は、ここでは地面の穴全般ではなく、墓穴を指します。「端」はふちのことで、「穴の端」は墓穴のふちを表します。そこから、墓穴のそばまで来ている、つまり死期が近いという意味に移りました。
「覗く」は、すきまや小さな穴などを通して向こうを見ることを表します。そのため、「穴の端を覗く」は、墓穴のふちをのぞき込む姿を思わせ、命の終わりがすぐ近くに迫っていることを、目に浮かぶ形で言い表すことわざになっています。
古い用例として、『物種集(ものだねしゅう)』(1678年10月ごろ・江戸時代前期)に、「年はよれどもよくふかき人」に続いて「穴のはたのぞきのかねをつかはれて」とあります。年を取っても欲の深い人と、墓穴の端をのぞくほど死に近い姿とを重ねた句で、「穴のはた」と「のぞき」が結びついて使われています。
この用例では、「穴のはたのぞき」という形が、ただ墓穴を見る動作だけを表すのではなく、老いて死期が近い身であることを含んだ言い方として働いています。つまり、現在の「穴の端を覗く」に近い発想が、江戸時代前期にはすでにことわざ的な比喩として通じていたといえます。
その少し後の井原西鶴『好色一代女』(1686年・江戸時代前期)にも、「穴のはたちかき」という形が出てきます。これは「墓穴のふちが近い」、すなわち死が近いという意味を、老いと無常観(むじょうかん)に結びつけて表す言い方です。
これらの流れから見ると、「穴の端を覗く」は、まず「墓穴のふち」という具体的な場面から生まれ、そこに「覗く」という動作が加わって、死がすぐそこに迫っている様子をいっそうはっきり表す形に整ったと考えられます。単に年を取ったことを言う表現ではなく、余命が長くないほどの切迫した状態を言うため、相手に直接向けるには慎重さが必要です。
「穴の端を覗く」の使い方




「穴の端を覗く」の例文
- 古い物語の主人公は、穴の端を覗く身になってから、若いころの行いを深く悔いた。
- 長い病で衰えた父を、家族は穴の端を覗く人としてではなく、最後まで一人の大切な人として支えた。
- 穴の端を覗くほどの重病から回復した彼は、毎日の食事をありがたく思うようになった。
- 江戸時代の文章には、穴の端を覗くという表現で、死期の近い老いの姿を表す例がある。
- 医療の場で穴の端を覗くなどと軽く言えば、患者や家族を深く傷つける。
- 穴の端を覗く年になったと言われても、祖母は最後まで庭の花に水をやり続けた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・Cambridge University Press編『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press。
・『物種集』1678年。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。























