【故事成語】
危うきを見て命を致す
【読み方】
あやうきをみてめいをいたす
【意味】
国や主君などの重大な危難に際し、自分の命をささげて忠義を尽くすこと。


【英語】
・lay down one’s life(大義のために命をささげる)
・sacrifice one’s life(人や国を助けるために命を犠牲にする)
【類義語】
・身命を賭す(しんめいをとす)
・利を見ては義を思い危うきを見ては命を授く(りをみてはぎをおもいあやうきをみてはいのちをさずく)
【対義語】
・保身(ほしん)
「危うきを見て命を致す」の故事
「危うきを見て命を致す」は、中国古典『論語(ろんご)』の「子張(しちょう)第十九」に出てくる「士見危致命」という一節にもとづく言い方です。原文では、子張が「士見危致命,見得思義,祭思敬,喪思哀,其可已矣」と述べ、士は危難を見たなら命を差し出し、利得を得る場面では義を考え、祭りには敬いを思い、喪には哀しみを思うなら、それでよい、と表しています。
ここでいう「士」は、ただ武力をもつ人ではなく、教養と責任をもって公の務めにあたる人を指します。「致命」は、命を軽く扱うという意味ではなく、守るべき義のために、命のある限り尽くすという意味です。後の注釈では、「致命」は「授命」と同じように、わが命を差し出すことだと説かれ、立身のうえで大切な節目の一つとされています。
『論語』には、これとよく似た形として「憲問(けんもん)第十四」の「見利思義、見危授命」も出てきます。そこでは、利益を前にしたときはそれが正しいかを考え、危急のときは命を投げ出して事にあたることが、完成された人物のあり方として語られています。
「危うきを見て命を致す」という日本語の形は、漢文の「見危致命」を読み下した表現として広まりました。『太平記』巻第十四「主上都落事付勅使河原自害事」には、戦の形勢が崩れ、主上が落ちていったと聞いた勅使川原丹三郎が「見危致命臣の義也」と言い、亡びゆく朝廷の臣として不義の側に従うことはできないとして、父子三騎で引き返し、自害する場面が記されています。
この『太平記』の用例では、「危うき」は国家や主君にかかわる大きな危難を指し、「命を致す」は臣としての義を守るために身命を差し出すことを表しています。現在の「危うきを見て命を致す」も、この流れを受けて、危険一般に飛びこむことではなく、重大な危機に際して忠義や責任を貫くという重い意味で用いられます。
「危うきを見て命を致す」の使い方




「危うきを見て命を致す」の例文
- 戦で国が危機に陥ったとき、危うきを見て命を致す覚悟を示した武士がいた。
- 彼は保身に走らず、危うきを見て命を致す忠臣として語り継がれた。
- 危うきを見て命を致すという言葉は、軽い親切ではなく、命をかけた忠義を表す。
- その物語では、主君を守るために戦場へ戻った家来の行動を、危うきを見て命を致すと述べている。
- 国の存亡がかかる局面で、危うきを見て命を致すほどの決意が問われた。
- 現代の生活で軽々しく使うより、歴史上の忠義や献身を語るときに、危うきを見て命を致すがふさわしい。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『論語』。
・朱熹『論語集注』。
・『太平記』14世紀後半成立。























