【ことわざ】
家に無くてならぬものは上がり框と女房
【読み方】
いえになくてならぬものはあがりがまちとにょうぼう
【意味】
上がり框のない家がないように、家庭には妻が欠かせないという、昔の家庭観に基づくことわざ。


【類義語】
・家に女房なきは火のなき炉のごとし(いえににょうぼうなきはひのなきろのごとし)
・家に女房のなきは梁のなきと同じ(いえににょうぼうのなきはうつばりのなきとおなじ)
「家に無くてならぬものは上がり框と女房」の語源・由来
「上がり框(あがりがまち)」は、玄関などで、土間から室内の床へ上がる境に取り付けた横木です。靴を脱いで家へ上がる暮らしでは、外と内とを分け、床の端を整える部分として、住まいの入口に欠かせないものでした。
このことわざは、「上がり框」と「女房」とを並べています。「女房」は、この言い方では妻を指し、家の中の営みを担う存在として語られています。つまり、家屋を形づくるうえで欠かせない上がり框をたとえにし、家庭の暮らしを支える妻もまた欠かせない、という考えを表したものです。
古い用例として挙げられるのは、浄瑠璃(じょうるり)の『蘆屋道満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)』(1734年・江戸時代中期、初代竹田出雲作)です。この作品は、安倍保名(あべのやすな)に助けられた白狐が葛の葉となり、夫婦になる物語を含む浄瑠璃で、享保十九年に竹本座で初演されました。
その第三段には、「家になふてならぬものは、上(アガ)り框(ガマチ)と女房と世話にもいふじゃないかいのふ」とあります。現在の「家に無くてならぬものは上がり框と女房」とほぼ同じ内容の言い方が、すでに江戸時代の芝居のせりふに用いられていたことが分かります。
ここで大切なのは、「世話にもいふ」という言い回しです。この時代の「世話」には、世間の人がする話や、世間で用いられる慣用の言葉という意味があります。そのため、このせりふは、作品の中で初めて作られた特別な表現というよりも、観客にも通じる世間の言い伝えとして持ち出されたものと考えられます。
また、古い用例では「家になふてならぬものは」という仮名遣いで書かれ、「上り框」に近い形が用いられています。のちには、現代の表記に整えられた「家に無くてならぬものは上がり框と女房」という形で掲げられ、ことわざとして伝えられてきました。
ただし、この言葉が成り立った背景には、家庭の仕事や子育てを妻が主に担うものとした、昔の役割分担の考え方があります。現在では、家族の暮らしは性別にかかわらず支え合うものと考えられるため、このことわざは、昔の家の造りと家庭観を伝える表現として理解するのが適切です。
「家に無くてならぬものは上がり框と女房」の使い方




「家に無くてならぬものは上がり框と女房」の例文
- 江戸時代の家庭観を学ぶ授業で、先生は家に無くてならぬものは上がり框と女房を取り上げた。
- 古い商家を守った祖母の話を聞き、父は家に無くてならぬものは上がり框と女房という言葉を思い出した。
- 郷土資料館の展示には、家に無くてならぬものは上がり框と女房に表れた昔の暮らし方が紹介されていた。
- 家族の役割の変化を話し合う中で、家に無くてならぬものは上がり框と女房は歴史的な家庭観を表す例として挙げられた。
- 祖父は、旅館を支え続けた祖母をたたえて、家に無くてならぬものは上がり框と女房と昔の言い方で語った。
- 小説の主人公は、家を切り盛りする妻への感謝を、家に無くてならぬものは上がり框と女房ということわざに託した。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・竹田出雲『蘆屋道満大内鑑』1734年。























