【故事成語】
一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ
【読み方】
いっけんかげにほゆればひゃっけんこえにほゆ
【意味】
一人が根拠のないことやいいかげんなことを言い出すと、多くの人が真偽をたしかめず、本当のことのように広めてしまうこと。


【英語】
・Like dogs, when one barks, all bark(一匹が吠えると、ほかもみな吠えるように、人がつられて同調すること)
【類義語】
・一犬虚に吠ゆれば万犬実に伝う(いっけんきょにほゆればばんけんじつにつたう)
・一人虚を伝うれば万人実を伝う(いちにんきょをつたうればばんにんじつをつたう)
「一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」の故事
この故事成語のもとになる形は、中国の後漢の王符による『潜夫論(せんぷろん)』に出てきます。『潜夫論』は王符の著作として伝わり、「賢難第五」の中に「一犬吠形,百犬吠聲」という句が記されています。
『潜夫論』のこの部分では、世の中の人々が、人物の本当の価値や評判の真偽をよく見分けず、声の大きい評判に引きずられてしまうことを問題にしています。すぐれた人がねたみや悪口で苦しめられ、人々が事実を見ずにうわさへなびく、という文脈の中で、この句が使われています。
原文の「一犬吠形,百犬吠聲」は、一匹の犬が何かの形を見て吠えると、百匹の犬がその声を聞いて吠える、という意味です。最初の犬は何かを見て吠えていますが、あとの多くの犬は実際に何を見たわけでもなく、ただ声につられて吠えています。
この句のすぐあとに、王符は「世の人が真実と偽りを見分けないこと」を傷む気持ちを述べ、たとえ話を続けます。そこでは、狩りをする司原氏が、ほかの人々の声に惑わされ、自分の追っていたものをやめて別の獲物へ向かい、ついには価値のある獲物と思い込んだものが実はただの豚であったと知る、という話が語られます。
このたとえ話は、声や評判だけを追いかける危うさを示しています。何が本当かを自分で確かめず、ほかの人の声が多いから正しいと思い込むと、判断を誤るという考えが、犬のたとえと狩りのたとえの両方で表されています。
日本語では、もとの漢文に近い「一犬形に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」という形があり、室町時代中ごろの『文明本節用集』にも用例が示されています。また、「形」を「影」とした「一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」という形も使われ、影におびえて吠える犬の姿として意味を受け取りやすくなっています。
現在の意味では、犬の行動そのものよりも、人間のうわさや評判の広まり方を戒める表現として使います。一人の思い込みや不確かな発言が、多くの人の受け売りによって本当のことのように広がる危うさを、短く鋭く言い表す故事成語です。
「一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」の使い方




「一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆ」の例文
- ネット上の未確認情報がまたたく間に広がり、一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆのこわさを感じた。
- 一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆで、一人の思い込みが町内のうわさになった。
- 先生の言葉を聞き違えた生徒の話が広まり、一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆの状態になった。
- 会社で根拠のない人事の話が広がるのは、一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆと言うほかない。
- 家族の中でも、一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆにならないよう、聞いた話は本人に確かめる必要がある。
- 友人の何気ないひと言が大きな誤解を生み、一犬影に吠ゆれば百犬声に吠ゆの例となった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社『会話で使えることわざ辞典』集英社。
・W. Carew Hazlitt, English Proverbs and Proverbial Phrases, John Russell Smith, 1869.
・王符『潜夫論』後漢。
・『文明本節用集』室町時代中期。























