【故事成語】
一夫関に当たれば万夫も開くなし
【読み方】
いっぷかんにあたればばんぷもひらくなし
【意味】
一人が関所を守れば、万人の力でも通れないということから、地形がきわめて険しく、守りの堅い場所をいう。


【英語】
・One man can hold the pass against ten thousand enemies(一人で関所を守り、数多くの敵を防げる)
【類義語】
・要害堅固(ようがいけんご)
・金城湯池(きんじょうとうち)
・難攻不落(なんこうふらく)
「一夫関に当たれば万夫も開くなし」の故事
この故事成語のもととなった形は、唐の詩人李白の『蜀道難(しょくどうなん)』に出てくる「一夫當關,萬夫莫開」です。李白は、701年から762年に生きた盛唐期の詩人で、『蜀道難』では、長安のある秦の地から蜀へ入る道が、天にのぼるより難しいほど険しいと、くり返し歌っています。
『蜀道難』の後半には、連なる峰、絶壁に垂れた松、滝や急流の音が描かれ、そのあとに、「劔閣崢嶸而崔嵬,一夫當關,萬夫莫開」とあります。これは、剣閣が高く険しくそびえ、一人が関所を守れば万人でも開くことができない、という意味につながる場面です。
剣閣(けんかく)は、蜀に入る道の要所として知られた険しい地です。『水経注』には、連なる山が非常に険しく、空中にかけたような道が通じているため剣閣と呼ぶ、という趣旨の記述があり、この地名そのものに、山道と関所の険しさが重なっています。
李白の表現には、さらに古い言い回しの響きもあります。『文選』巻五十六に収められた張載「剣閣銘」には、「一人荷戟,萬夫趑趄。形勝之地,匪親勿居」とあり、一人が戟(げき:ほこ)を持っていれば、万人も趑趄(ししょ:進みにくくなる)し、地勢のすぐれた要害は、信頼できる者でなければ守らせてはならない、という意味を表しています。
このように、もとの発想は、「一人が特別に強い」というだけではありません。道が狭く、山が険しく、守る側が地形を味方につけるため、大軍でも簡単には進めないという軍事上の考え方が土台になっています。
日本語では、漢文の句を訓読した形で、「一夫関に当たれば万夫も開くなし」が広まりました。『太平記』(14世紀後半ごろ)巻三十九には、「一夫忿て関に臨めば、万夫も不可傍」と近い形の用例があり、中世の日本でも、険しい場所に立てこもれば、大勢でも近づきにくいという意味で理解されていたことが分かります。
現在の「一夫関に当たれば万夫も開くなし」は、李白の詩句に由来する雄大な言い回しとして、要害の堅さを表す故事成語になっています。狭い通路や山城のように、少人数の守りでも大軍を防げるほど攻めにくい場所を述べるときに、ふさわしい表現です。
「一夫関に当たれば万夫も開くなし」の使い方




「一夫関に当たれば万夫も開くなし」の例文
- 山道が一人分の幅しかないため、その砦は一夫関に当たれば万夫も開くなしの要害だった。
- 谷にかかった細い橋を守れば、一夫関に当たれば万夫も開くなしの状態になる。
- 古い山城は背後を崖に守られ、一夫関に当たれば万夫も開くなしといえる地形に築かれていた。
- 敵軍は大勢だったが、関所が険しすぎて、一夫関に当たれば万夫も開くなしの守りを破れなかった。
- その城門へ続く坂は狭く曲がりくねっており、一夫関に当たれば万夫も開くなしの備えになっていた。
- 港へ入る水路が一本だけなので、見張り台を押さえれば一夫関に当たれば万夫も開くなしとなる。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・北京・商務印書館・小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・蘅塘退士編『唐詩三百首』武林三餘堂、1763年。
・李白『蜀道難』唐代。
・張載『剣閣銘』。
・蕭統編『文選』南朝梁。























