【故事成語】
梅を望んで渇きを止む
【読み方】
うめをのぞんでかわきをとどむ
【意味】
梅の実の酸味を思い浮かべることで、のどの渇きを一時的にしのぐこと。転じて、空想や代わりのもので、欲求や苦しさを一時的にまぎらわせること。


【英語】
・to console oneself with illusions(空想で自分を慰める)
・to quench one’s thirst by thinking of plums(梅を思って渇きをいやす)
【類義語】
・望梅止渇(ぼうばいしかつ)
・梅林止渇(ばいりんしかつ)
・止渇之梅(しかつのうめ)
・画餅充飢(がべいじゅうき)
「梅を望んで渇きを止む」の故事
「梅を望んで渇きを止む」は、中国の「望梅止渇」という故事にもとづく故事成語です。「望梅」は梅を望み見ること、「止渇」は渇きを止めることを表し、梅の酸っぱさを思い浮かべるだけで唾が出るという、人の体と心の働きにもとづいた表現です。
故事の中心にいるのは、後漢末から三国時代にかけて活躍した曹操(そうそう)です。曹操は155年に生まれ、220年に没した武将で、魏の基礎を築き、死後に武帝と追尊されました。
この話は、『世説新語(せせつしんご)』の「仮譎」に出てきます。『世説新語』は、六朝時代の南朝宋の劉義慶(りゅうぎけい)が編んだ書物で、後漢末から宋初までの貴族・文人・僧侶などの逸話を集めたものです。
原文では、曹操を指す「魏武」が行軍の途中で水をくむ道を見失い、軍の兵士たちが皆、渇きに苦しんだとあります。そこで曹操は、「前有大梅林,饒子,甘酸,可以解渴」と命じました。前方に大きな梅林があり、実が多く、甘酸っぱく、渇きをいやせるという意味です。
兵士たちはその言葉を聞くと、梅の甘酸っぱい味を想像しました。すると、口の中に自然と唾が出て、その勢いで前へ進み、水源までたどり着くことができたと記されています。
この故事で大切なのは、その場で実際に梅を食べたわけではない点です。曹操は、兵士たちに梅の実を思い浮かべさせることで体の反応を引き出し、苦しい行軍を一時的に乗り切らせました。
もとの話では、渇きを止めたのは本物の水ではなく、梅の想像によって生じた唾です。そのため、この故事成語は、本当の解決ではないものの、空想や言葉によって一時の苦しさをまぎらわせるという意味へ広がりました。
後には、「望梅止渇」という四字の形だけでなく、「梅を望んで渇きを止む」という訓読風の言い方でも用いられるようになりました。また、「梅林止渇」「止渇之梅」なども、同じ故事から生まれた近い表現として使われています。
この故事成語は、よい意味だけで使うとは限りません。一時しのぎとして役立つ場合にも用いられますが、空想で慰めるだけでは根本の問題を解決できない、という注意の意味を含むこともあります。
現在では、のどの渇きそのものに限らず、手に入らないものを想像して気持ちをまぎらわせる場合や、代わりの方法で当面をしのぐ場合に用います。もとの故事を知ると、言葉や想像が人を動かす力をもつ一方で、それだけに頼りすぎてはならないことも分かります。
「梅を望んで渇きを止む」の使い方




「梅を望んで渇きを止む」の例文
- 大会までの苦しい練習中、優勝した場面を思い浮かべて、梅を望んで渇きを止むように気持ちを保った。
- 給料日前の数日は、次の休みに食べたい料理を考えながら、梅を望んで渇きを止む思いで過ごした。
- 本物の休暇はまだ先だが、旅行の写真を眺めて梅を望んで渇きを止むように心をなぐさめた。
- 暑い帰り道、家で飲む冷たい水を想像し、梅を望んで渇きを止むように歩き続けた。
- 完成後の校庭を思い描きながら、児童たちは梅を望んで渇きを止む形で工事中の不便をこらえた。
- 理想の暮らしを考えるだけでは梅を望んで渇きを止むにすぎず、実際の計画を立てる必要がある。
主な参考文献
・北京・商務印書館、小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・教育部『成語典』2020年版。
・劉義慶撰、劉孝標注『世説新語』南朝宋、5世紀。























