【ことわざ】
靨は七難隠す
【読み方】
えくぼはしちなんかくす
【意味】
えくぼがあると愛らしく見え、ほかの多くの欠点が目立たなくなること。


【英語】
・Beauty covers a multitude of sins(美しさは多くの欠点を覆い隠す)
【類義語】
・色の白いは七難隠す(いろのしろいはしちなんかくす)
「靨は七難隠す」の語源・由来
「靨」は、笑ったときに頬にできる小さなくぼみのことです。古くは『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(昌泰年間、898〜901年、昌住著)に出てきて、後には『虎明本狂言・枕物狂』(室町末〜近世初)にも「ゑくぼ」の用例があります。
漢字としての「靨」も、顔のくぼみ、とくに頬のくぼみを表す字として扱われてきました。古い説明には、頬にある靨は美しく、額にあると醜い、という趣旨の言い方があり、靨が顔の印象を左右するものとして受けとめられていたことが分かります。
一方、「七難」は、もとは仏教で七種類の災難を表す言葉です。経典によって内容は異なり、『法華経』や『仁王般若経』などでは、火難・水難などの災いをまとめて七難と呼びます。
ただし、このことわざの「七難」は、仏教でいう厳密な七つの災難ではありません。ここでは「多くの難点」「いろいろな欠点」という意味で使われており、「七」は数を七つに限るというより、多さや種類の多さを表しています。
「七難隠す」という形は、「色の白いは七難隠す」と深くつながります。この言い方には「七難」だけでなく「十難」の形もあり、『世間娘容気(せけんむすめかたぎ)』(1717年・江戸時代中期、江島其磧作)には、「色の白きは十難かくす」という古い用例があります。
『世間娘容気』は、浮世草子(うきよぞうし)の気質物(かたぎもの)で、当時の娘たちの性質やありさまを描いた作品です。この古い用例は、「一つの目立つ美点が、ほかの難点を目立たなくする」という考え方が、江戸時代にはすでにことわざの形で語られていたことを示します。
「靨は七難隠す」は、その「七難隠す」という型に、色の白さではなく靨を当てはめた言い方です。えくぼは笑顔と結びつきやすく、顔全体の印象をやわらげるため、ほかの欠点まで目立たなくする魅力として受けとめられてきました。
また、えくぼは「痘痕も靨」のように、欠点と美点を対照させる表現にも使われてきました。『伊賀越増補合羽之龍』(1779年・江戸時代後期の洒落本)には、あばたが「ゑくぼ」となる趣旨の用例があり、えくぼが人の顔立ちを愛らしく見せるものとして広く理解されていたことがうかがえます。
したがって、「靨は七難隠す」は、特定の中国故事から生まれた言葉ではなく、えくぼを魅力のしるしとして見る考えと、「七難隠す」という日本語のことわざの型が結びついてできた表現です。現在は、単に顔立ちをほめる言葉としてだけでなく、一つの魅力が全体の印象をよくし、細かな欠点を目立たなくするという意味で用いられます。
「靨は七難隠す」の使い方




「靨は七難隠す」の例文
- 彼女は笑うと頬にえくぼが出るので、靨は七難隠すという言葉どおり、少し気の強いところまで愛らしく見える。
- 弟の写真は髪がはねていたが、満面の笑みのえくぼに目が行き、靨は七難隠すと思った。
- 靨は七難隠すとはいえ、人の欠点をあげつらう言い方にならないよう注意したい。
- 祖母は、母の若いころの写真を見て、靨は七難隠すという言葉を思い出した。
- 面接の場では、靨は七難隠すに頼るより、話し方や準備を整えることが大切だ。
- あの俳優は少し無口だが、笑ったときの印象が明るく、靨は七難隠すという表現がよく合う。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・白川静著『字通 普及版』平凡社、2014年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・江島其磧『世間娘容気』1717年。
・『淮南子』























