【ことわざ】
枝を矯めて花を散らす
【読み方】
えだをためてはなをちらす
【意味】
小さな欠点を直そうとして、かえって大切な部分を傷つけたり、全体を損なったりすること。


【英語】
・do more harm than good(役に立つより害になる)
【類義語】
・角を矯めて牛を殺す(つのをためてうしをころす)
・葉を欠いて根を断つ(はをかいてねをたつ)
・葉を截ちて根を枯らす(はをたちてねをからす)
【対義語】
・大事の前の小事(だいじのまえのしょうじ)
「枝を矯めて花を散らす」の語源・由来
「枝を矯めて花を散らす」の「矯める」は、曲がっているものを伸ばしたり、まっすぐなものを曲げたりして、形を整えることを表します。また、悪い性質や癖を直す意味でも使われます。
このことわざは、木の枝ぶりをよくしようとして枝を動かした結果、いちばん大切な花を落としてしまう様子にもとづきます。枝は直せても、花が散ってしまえば、木を美しく見せるという本来の目的は失われます。
つまり、直そうとしたものは小さな欠点であり、失ったものは大切な価値です。この対比によって、細部にこだわりすぎる危うさを分かりやすく表しています。
古い用例としてよく知られるものに、『南総里見八犬伝』(1814〜1842年・江戸時代後期、曲亭馬琴作)があります。この作品は、98巻106冊からなる長編の読本(よみほん)で、八犬士の活躍を描いた伝奇小説です。
『南総里見八犬伝』には、「枝を櫽(タメ)て花を散し、角を斫(きっ)て牛を殺す」という形の言葉が出てきます。ここでは、主君に害を及ぼしてまで敵を討とうとすることを、枝を直そうとして花を散らすこと、角を直そうとして牛を殺すことにたとえています。
この用例では、「枝を櫽(タメ)て花を散し」という古い表記が使われています。「櫽」は、曲がった木をまっすぐに直す道具や、曲がったものを直すことに関わる字です。
同じ場面で並べられている「角を斫(きっ)て牛を殺す」は、現在の「角を矯めて牛を殺す」に近い表現です。牛の角を直そうとして、かえって牛そのものを死なせてしまうというたとえで、小さな欠点を直そうとして全体をだめにする意味をもちます。
「枝を矯めて花を散らす」と「角を矯めて牛を殺す」は、どちらも、手直しの目的と結果が逆になってしまうことを表します。大切なのは、直すことそのものではなく、直し方の程度を誤ると、本来守るべきものを失うという点です。
表記には、「枝を撓めて花を散らす」とする形もあります。「撓める」には、押して曲げる、しならせるという意味があり、木や枝に力を加える具体的な動きが分かりやすく表れます。
一方、現在よく用いられる「矯める」は、形を整えるだけでなく、欠点や癖を直す意味も含みます。そのため、目に見える枝の形を直すことから、人や物事の小さな欠点を直そうとすることへ、意味が自然に広がっています。
このことわざは、欠点を直すことを否定する言葉ではありません。細かな修正に夢中になりすぎて、作品のよさ、人の意欲、全体の調和などをこわしてはいけない、という戒めを表す言葉です。
「枝を矯めて花を散らす」の使い方




「枝を矯めて花を散らす」の例文
- 作文の一字一句を直しすぎて、のびのびした文章のよさを失うのは、枝を矯めて花を散らすようなものだ。
- 発表の声の大きさだけを厳しく注意し続け、本人のやる気をなくさせては、枝を矯めて花を散らすことになる。
- 古い家の小さな傷を直そうとして、昔ながらの雰囲気まで壊してしまえば、枝を矯めて花を散らす結果になる。
- チームの細かな欠点ばかり直そうとして、仲のよさを失ってしまうのは、枝を矯めて花を散らすに近い。
- 料理の味を少し整えるつもりで調味料を足しすぎ、全体の味をだめにしてしまうのは、枝を矯めて花を散らす例だ。
- 部下の資料を完璧に直そうとして、本人の工夫まで消してしまうのは、枝を矯めて花を散らすおそれがある。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・曲亭馬琴『南総里見八犬伝』1814〜1842年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary』。























