【ことわざ】
顔に似ぬ心
【読み方】
かおににぬこころ
【意味】
顔つきや容貌と、その人の心とは必ずしも一致しないということ。美しい顔でも冷たい心の人があり、怖そうな顔でもやさしい心の人があるというたとえ。


【英語】
・Don’t judge a book by its cover.(外見だけで人や物を判断してはいけない)
・Looks can be deceptive.(見た目は当てにならないことがある)
【類義語】
・外面如菩薩内心如夜叉(げめんにょぼさつないしんにょやしゃ)
・人には添うてみよ馬には乗ってみよ(ひとにはそうてみようまにはのってみよ)
【対義語】
・思い内にあれば色外に現る(おもいうちにあればいろそとにあらわる)
・顔に出る(かおにでる)
「顔に似ぬ心」の語源・由来
「顔に似ぬ心」は、容貌と心とは必ずしも一致しないという考えを、短い形にまとめたことわざです。顔は美しくても心が恐ろしい人もあり、反対に、怖そうな顔でも心の清くやさしい人もある、という意味を表します。
このことわざの「顔」は、単に頭部の前面だけを指すのではなく、人に見える顔かたちや顔つきを指します。「容貌(ようぼう)」は顔かたち・顔つきを表し、「顔付き」は顔のようすや顔だち、また気持ちを表す顔のようすを表します。
「心」は、気持ちや精神を表す言葉です。このことわざでは、外から見える形ではなく、その人の内側にある性格・思いやり・冷たさなどをまとめて「心」と呼んでいます。
「似ぬ」は「似ない」という意味です。「似る」には、形や性質が同じようであるという意味のほか、「…に似ず…だ」の形で、受ける印象とは実際が違っていることを表す用法があります。
そのため、「顔に似ぬ心」は、顔から受ける印象と、実際の心が似ていないことを表します。顔立ちがやさしそうだから心もやさしい、顔つきが怖そうだから心も怖い、とは限らないという見方が、このことわざの骨組みになっています。
このことわざに近い考え方は、外見と内面を対比する昔からの言い方にも表れています。「外面如菩薩内心如夜叉」は、外の姿は菩薩のように美しく柔和であるが、心は夜叉のように恐ろしいという意味です。
この古い言い方は、『康頼宝物集(やすよりほうもつしゅう)』(1179年ごろ・平安時代末期、平康頼著)に、「外面似菩薩、内心如夜叉」という形で出てきます。そこでは、外から見える姿と内側の心を強く対比する表現として使われています。
また、『日蓮遺文(にちれんいぶん)』の「主師親御書(しゅししんごしょ)」(1255年・鎌倉時代、日蓮著)にも、「外面は菩薩に似たれども、内心は夜叉の如し」という形が出てきます。外に表れる柔らかさと、内側にある恐ろしさを分けて考える発想が、中世の文献にもはっきり書かれています。
ただし、「顔に似ぬ心」は、外見がよくて心が悪い場合だけをいう言葉ではありません。顔は美しくても心が冷たい場合と、顔は怖そうでも心が清くやさしい場合の両方を含み、外見と内面が一致しないこと全体を表します。
この点で、「顔に似ぬ心」は、人を悪く言うためだけのことわざではありません。人を顔立ちだけで決めつけず、付き合い方や行いを見て、その人の本当の心を考えるべきだという教えを含んでいます。
似た方向の教えに、「人には添うてみよ馬には乗ってみよ」があります。これは、人柄のよしあしは親しく交わってみなければ分からないという意味で、室町時代末から近世初めごろの狂言『縄綯(なわない)』にも近い形の用例があります。
一方、反対の考え方として、「思い内にあれば色外に現る」があります。これは、心の中の思いは自然に顔色やしぐさに表れるという意味で、「顔に似ぬ心」とは、内面と外見の関係を反対側からとらえた言い方です。
現在の「顔に似ぬ心」は、人を見た目だけで判断しないための教訓として用いられます。顔かたちや第一印象に引っぱられず、言葉づかい、行動、思いやりをよく見て人を理解することの大切さを伝えることわざです。
「顔に似ぬ心」の使い方




「顔に似ぬ心」の例文
- 怖そうな顔つきの店主だったが、迷子の子どもを親切に助け、まさに顔に似ぬ心だった。
- 彼はやさしげな笑顔をしているが、人の失敗を笑うところがあり、顔に似ぬ心だと思われた。
- 顔に似ぬ心というように、見た目の印象だけで友人の性格を決めてはならない。
- 強面の先輩は後輩の練習を毎日手伝ってくれ、顔に似ぬ心の温かさを示した。
- 上品な顔立ちでも思いやりのない言動が続けば、顔に似ぬ心と評されることがある。
- 転校生の無口な表情だけを見て避けていたが、話してみると親切で、顔に似ぬ心を実感した。
主な参考文献
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平康頼『康頼宝物集』1179年ごろ。
・日蓮『主師親御書』1255年。























