【故事成語】
己を以て人を度る
【読み方】
おのれをもってひとをはかる
【意味】
自分自身を基準として、他人の心情や能力を推し量ること。多く、自分と他人との違いを考えずに判断することへの戒めを表す。


【英語】
・Measure another’s corn by one’s own bushel(自分の物差しで他人を判断する)
【対義語】
・十人十色(じゅうにんといろ)
「己を以て人を度る」の故事
「己を以て人を度る」の漢文の形は、「以己度人」です。「度」には、長さを測るという意味のほか、物事や人の心を推測するという意味があり、全体では「自分自身を基準にして、他人を推し量る」ということを表します。
この表現は、『韓詩外伝(かんしがいでん)』(前漢、韓嬰著)に出てきます。『韓詩外伝』は、古くから伝わる説話や人物の言葉を取り上げ、それらを中国最古の詩集である『詩経(しきょう)』の教えと結び付けた、全十巻の書物です。
その一節では、人を欺こうとする者が、昔と今とでは人の心や世の中のあり方が異なるため、後世の人は昔の出来事について簡単にだませると主張します。これに対して、聖人はなぜ欺かれないのかという問いが示されます。
答えには、「聖人以己度人者也。以心度心、以情度情、以類度類」とあります。聖人は、自分の心から人の心を推し量り、自分の感情から人の感情を推し量り、同じ種類の事柄を比べるので、時代が離れていても、人間の本質を見誤らないという意味です。
この古い用例では、「自分を基準にして他人を推し量ること」は、必ずしも悪い行為ではありません。人間に共通する心の動きを手がかりに、目の前にいない人や昔の人の考えを正しく理解するための方法として述べられています。
『三国志(さんごくし)』(3世紀末、陳寿著)にも、「夫れ事を論じ敵を料るには、当に己を以て人を度るべし」という趣旨の言葉が出てきます。魏の重臣が、呉の軍が再び攻めてくるかを論じた場面で、自分たちが敵の立場ならどのように行動するかを考え、それを手がかりに相手の動きを予測しました。ここでも、敵情を判断するための実際的な方法として使われています。
のちの教訓書『明心宝鑑(めいしんほうかん)』(1393年、范立本編)には、「以己之心、度人之心」とあります。自分の心と相手の心を比べ、相手の立場を思いやることを説いた言葉で、他人を理解するために自分の心を手がかりとする考え方が、簡潔な教えとしてまとめられています。
日本語では、「度る」の代わりに「量る」と書く形も使われます。「度る」は、漢文の「度」の字をそのまま生かした表記であり、「量る」は、人の心や力量を推し量るという意味を分かりやすく表した表記です。
現在では、相手も自分と同じように考え、同じことができるはずだと思い込むなど、自分の物差しをそのまま他人に当てはめることへの戒めとして使われる場合が多くなっています。こうして、古くは人間の心や敵の行動を理解する方法として使われた表現が、現在では、自分本位な判断によって他人を見誤らないよう注意する言葉として定着しています。
「己を以て人を度る」の使い方




「己を以て人を度る」の例文
- 自分が苦手だから弟にもできないと決めつけるのは、己を以て人を度ることになる。
- 社長は自分の経験だけで若い社員の能力を低く見て、己を以て人を度る誤りを犯した。
- 早起きが平気な母は家族も同じだと思い、己を以て人を度るように旅行の予定を組んだ。
- 友人の沈黙を自分と同じ怒りの表れだと考えるのは、己を以て人を度る見方だ。
- 地域ごとの習慣を知らず、自分の常識だけで批判すれば、己を以て人を度ることになる。
- 交渉相手も同じ利益を望むはずだと読むことには、己を以て人を度る危うさがある。
主な参考文献
・北京・商務印書館、小学館共同編集『中日辞典 第3版』小学館、2016年。
・吉田照子『韓詩外伝』明徳出版社、1993年。
・韓嬰『韓詩外伝』前漢。
・陳寿『三国志』3世紀末。
・范立本編『明心宝鑑』1393年。























