【ことわざ】
嬶天下に空っ風
【読み方】
かかあでんかにからっかぜ
【意味】
上州、つまり現在の群馬県の名物といわれる「嬶天下」と「空っ風」を並べ、その土地の気質や風土を言い表すこと。


【類義語】
・嬶天下に北の風(かかあでんかにきたのかぜ)
「嬶天下に空っ風」の語源・由来
「嬶天下に空っ風」は、上州の土地柄を表す言葉として伝わってきたことわざです。上州は、昔の上野国(こうずけのくに)にあたり、現在の群馬県のほぼ全域を指します。
このことわざは、「嬶天下」と「空っ風」という二つの名物を並べた形です。人の暮らしを表す「嬶天下」と、自然の厳しさを表す「空っ風」を組み合わせ、上州らしさを短く言い表しています。
「嬶」の字は、妻を意味する「かか」「かかあ」を表す国字です。「嬶天下」は、家庭の中で妻の発言力や力が強いことを表し、「かかあでんか」と読みます。
ただし、上州の「かかあ天下」は、単に夫が妻に頭が上がらないことだけを表す言葉ではありません。群馬では、養蚕(ようさん)・製糸(せいし)・織物などの絹産業で女性が家計を支えた歴史と結びつき、働き者の女性をたたえる意味合いも強くなりました。
「かかあ天下」という言い方は、明治時代に生まれたとされ、明治以降には群馬名物として新聞などに取り上げられました。さらに、大正時代には辞書にも載るようになり、広まっていきました。
近代の用例としては、水上滝太郎『大阪の宿』(1925〜1926年)に「御旅館酔月は嚊(カカア)天下だった」という形が出てきます。ここでは、宿の中で女性の力が強いことを表す言い方として使われています。
一方の「空っ風」は、「からかぜ」が変化した言葉です。泉鏡花『化銀杏』(1896年、明治時代)には「東京はからッ風(カゼ)で塵埃が酷いから」という用例が出てきます。
空っ風は、冬に北西から吹く乾いた風で、山岳地帯から吹き下ろしてくるときに、強く冷たく感じられます。特に上州、つまり群馬県でよく言われる風として知られています。
冬の季節風は、日本海側に雪を降らせたあと、山を越えて太平洋側へ吹き下ります。そのため、関東地方や東海地方の太平洋側では冷たく乾いた風となり、これが空っ風と呼ばれます。
「嬶天下に空っ風」は、このように、生活の中で力を発揮した女性たちの姿と、冬の厳しい乾いた風を一つに並べた言い方です。単なる家庭内の力関係だけでなく、上州の産業、気候、土地の気風をまとめて示す表現として受け継がれてきました。
「嬶天下にからっ風」の形のほか、「嬶天下に北の風」という形も、同じ系統の言い方として記録されています。表記は「空っ風」「からっ風」と揺れますが、いずれも乾いた冬の強い風を指す点では同じです。
現在では、「嬶天下に空っ風」は、群馬を紹介するときに、昔の暮らしや絹産業、冬の気候を一緒に思い起こさせる言葉として使われます。働き者の女性をたたえる見方と、土地の自然を表す見方とが重なっているところに、このことわざの味わいがあります。
「嬶天下に空っ風」の使い方




「嬶天下に空っ風」の例文
- 群馬の地域紹介で、養蚕と冬の風を説明するために嬶天下に空っ風を取り上げた。
- 祖母は、上州の昔の暮らしを語るとき、嬶天下に空っ風という言い方をよく使った。
- この展示は、働き者の女性と乾いた冬風を並べる嬶天下に空っ風の背景を伝えている。
- 旅先の案内板には、群馬の風土を表す言葉として嬶天下に空っ風が紹介されていた。
- 先生は、嬶天下に空っ風は家庭だけの話ではなく、絹産業と土地の気候を合わせた地域の表現だと説明した。
- 地域新聞の記事は、嬶天下に空っ風を手がかりに、上州の暮らしと気候を読み解いていた。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・平凡社編『世界大百科事典 改訂新版』平凡社、2007年。
・文化庁『かかあ天下―ぐんまの絹物語―』。
・群馬県『群馬名物を研究!ツルハシ』2021年。























