【故事成語】
隠れたるより見るるはなし
【読み方】
かくれたるよりあらわるるはなし
【意味】
人に隠れて悪事をしても、自分自身が知っている以上、それ以上に明らかなことはないということ。転じて、秘密は隠しても、かえって世間に知られやすいということ。


【英語】
・The truth will out.(真実は隠しても明るみに出る)
【類義語】
・隠すより現る(かくすよりあらわる)
・隠すことは現る(かくすことはあらわる)
・隠せばいよいよ現る(かくせばいよいよあらわる)
【対義語】
・公明正大(こうめいせいだい)
「隠れたるより見るるはなし」の故事
「隠れたるより見るるはなし」は、中国の儒教経典『礼記(らいき)』の「中庸(ちゅうよう)」に出てくる言葉にもとづく故事成語です。「中庸」は、もとは『礼記』の一編で、のちに朱熹(しゅき)が『中庸章句』を作ったことから、四書の一つとして重んじられるようになりました。
『礼記』は、前漢のころに戴聖が礼に関する記録を選びまとめた四十九編の書物です。王朝の制度、服喪、動作の規則、礼楽の理論などを含み、戦国末から漢初の学問を集めた重要な経書です。
「中庸」の冒頭には、「道は少しの間も離れてはならないものであり、離れられるものなら道ではない」という趣旨が述べられます。そのため、君子は人に見えないところでも慎み、人に聞こえないところでも恐れるべきだ、と説いています。
その流れの中に、「莫見乎隱,莫顯乎微。故君子慎其獨也」とあります。これは、「隠れたものほど現れやすいものはなく、かすかなものほど明らかなものはない。だから君子は、一人でいるときこそ慎む」という意味です。
この言葉は、単に「秘密はいつか人に知られる」という世間的な注意だけを述べたものではありません。もとの文脈では、だれも見ていない場所での行いであっても、自分自身はその行いを知っているため、心に対しては決して隠れたことにならない、という倫理の教えを表しています。
「隠れたるより見るるはなし」の「見るる」は、ここでは「みるる」ではなく、「あらわるる」と読みます。「見」は、外に出て人の目に触れる、明らかになるという意味で用いられています。
「隠れたるより」は、「隠れているものから」という意味ではなく、「隠れていること以上に」という比較の形です。つまり、表面上は隠れていることのほうが、かえって人の目に付きやすいという逆説を表しています。
また、原文の「莫」は「なし」と読む否定の助字です。「莫見乎隱」は、隠れたものほど現れるものはない、という意味になり、続く「莫顯乎微」は、かすかなものほど明らかなものはない、という意味を添えています。
この言葉は、後に「人に隠れて悪事をしても、自分が知っているのだから、これ以上明らかなことはない」という意味で受け取られるようになりました。さらに転じて、秘密や隠し事は、隠そうとすればするほど、かえって世間に知れやすいという意味にも広がりました。
日本語の形としては、「隠れたるより現わるるは無し」という表記も用いられます。『柳多留(やなぎだる)』十七編(1782年・江戸時代中期)には、「かくれたるよりあらはるる炭だらけ」という用例があり、隠そうとしてもかえって露見するという意味が川柳の形で表れています。
明治時代の『近世紀聞』(1875〜1881年、染崎延房著)には、「隠れたるより顕るるは莫く微なるより明なるはなし」という形が出てきます。漢文の読み下しに近い形で、隠れたことや小さなことほど、かえって明らかになるという道理を述べています。
これに近い表現として、「隠すより現る」もあります。こちらは『首楞厳経(しゅりょうごんきょう)』の「隠さんと欲して弥々露る」に由来する言い方で、隠そうとすればするほど人に知られるという意味を表します。
「隠れたるより見るるはなし」は、『礼記』の教えから生まれた形で、自分の心に対しては隠し通せないという意味を強く持っています。現在では、秘密や悪事は隠しても、不自然な態度や小さな手がかりから明らかになる、という戒めとして用いられます。
「隠れたるより見るるはなし」の使い方




「隠れたるより見るるはなし」の例文
- 花瓶を割ったことを黙っていても、動揺した顔を見れば、隠れたるより見るるはなしというものだ。
- 机の中に破れたテストを隠しても、先生の前で急に落ち着かなくなり、隠れたるより見るるはなしとなった。
- 友人への贈り物を秘密にしていたが、皆が急に話をやめるので、隠れたるより見るるはなしで計画を気づかれた。
- 会社が不正な記録を隠そうとしたため、かえって疑いを招き、隠れたるより見るるはなしとなった。
- 小さな嘘を重ねるほど説明が不自然になり、隠れたるより見るるはなしで真相が明らかになった。
- 隠れたるより見るるはなしという言葉は、人に知られない場所でこそ自分を慎むべきだと教えている。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary 第10版』Oxford University Press、2020年。
・戴聖編『礼記』前漢。
・『柳多留』十七編、1782年。
・染崎延房『近世紀聞』1875〜1881年。























