【ことわざ】
金は命の親、命の敵
【読み方】
かねはいのちのおや、いのちのかたき
【意味】
金によって命を助けられることもあれば、反対に金が原因で命を落とすこともあるというたとえ。


【英語】
・Money is a good servant but a bad master.(金は使いこなせば役立つが、支配されれば害になる)
【類義語】
・金が敵(かねがかたき)
「金は命の親、命の敵」の語源・由来
「金は命の親、命の敵」の「金」は、金属の金ではなく、貨幣(かへい)や金銭を意味する「かね」です。「親」と「敵」という正反対のものを並べ、金銭が人の命に及ぼす二つの力を鮮やかに対照させています。
「命の親」は、命を助けてくれた恩人や、命を支えてくれるものを指す言い方です。一方、「金が敵」は、金銭のために人が苦しんだり、他人と争ったり、身を滅ぼしたりすることを表します。
「命の親」という表現は、室町時代末から近世初めの用例として、狂言『武悪(ぶあく)』に出てきます。命を助けてもらった人物が、相手を「偏に命の親と存る」と語る場面であり、命の恩人を実の親にも等しい存在として敬う言い方です。
金銭を「敵」と見る考えも、江戸時代前期には、すでに文章に表れています。井原西鶴の俳諧集『西鶴大矢数(さいかくおおやかず)』(1681年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「縁組も銀か敵のうき世也」とあります。
ここでの「銀」は金銭を指し、金が縁組にも争いや苦しみをもたらす世の中を詠んでいます。後の「命の敵」に通じる、金銭の危うい一面を示した古い用例です。
その七年後に刊行された『日本永代蔵(にほんえいたいぐら)』(1688年・江戸時代前期、井原西鶴著)は、町人の生活と金銭を主な題材とした作品です。その巻一の冒頭では、人は職業や身分にかかわらず、暮らしを支えるために金銀をためるべきだと説いています。
続いて、ためた金銀について、「これ、二親の外に命の親なり」とあります。金銭は、生み育ててくれた両親とは別に、人の暮らしと命を守ってくれる「親」のようなものだという意味です。
食べ物や住まいを得て、病気や不意の災難に備え、家族の暮らしを支えるには、金銭が欠かせません。そのため、金銀をためることは、ただ財産を増やすのではなく、命を守る備えとして捉えられていました。
しかし、『日本永代蔵』は、金銭の力をほめるだけではありません。「死すれば何ぞ、金銀、瓦石にはおとれり」と続き、人が死んでしまえば、金銀も瓦や石より役に立たなくなると述べています。
ここには、金銭は生きている人の命を支える大切なものであっても、命そのものより尊いわけではないという考えが表れています。金銭の力を認めながら、その限界も同時に見つめているのです。
また、この箇所に結び付く古いことわざとして、「銀は命の親、又命の敵」という形も伝わります。「銀」と「金」の違いはあっても、どちらもここでは金銭を表し、命を助ける働きと命を脅かす働きを一つの言葉にまとめています。
このように、「命の親」という肯定的な言い方と、「金が敵」という否定的な言い方には、近世の作品にそれぞれ古い用例があります。現在の「金は命の親、命の敵」は、その二つの考えを対句として重ね、金銭のもつ二面性を端的に表した形です。
このことわざは、金そのものを善いとも悪いとも決めつけていません。金は命を守るための力になりますが、金への執着や金銭をめぐる争いは、かえって人の命を危険にさらすことがあると戒めています。
「金は命の親、命の敵」の使い方




「金は命の親、命の敵」の例文
- 高額な治療費を寄付でまかなえた一方、財産争いで人が傷ついた事件を知り、金は命の親、命の敵だと思った。
- 父は、貯金の大切さと金を求めて無理をする危うさを、金は命の親、命の敵という言葉で教えた。
- 金は命の親、命の敵というから、十分な備えは必要だが、利益のために安全を軽んじてはならない。
- 救援資金が多くの被災者を助ける一方、金銭をめぐる争いが命を脅かすこともあり、まさに金は命の親、命の敵である。
- 会社は、金は命の親、命の敵との戒めを忘れず、利益よりも作業員の安全を優先した。
- 祖母は、手術費に救われた経験からも、欲に目がくらんだ人の末路からも、金は命の親、命の敵だと語った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・原道生編『校注 日本永代蔵(完)』武蔵野書院、1987年。
・小室正紀「経済思想としての井原西鶴」『三田学会雑誌』第108巻第2号、慶應義塾経済学会、2015年。
・井原西鶴『西鶴大矢数』1681年。
・井原西鶴『日本永代蔵』1688年。























