【故事成語】
下問を恥じず
【読み方】
かもんをはじず
【意味】
自分より年齢や地位が低い人に物事を尋ねたり、教えを受けたりすることを恥と思わないこと。


【英語】
・not be ashamed to ask and learn from those below one.(自分より下の立場の人に尋ねて学ぶことを恥じない)
【類義語】
・聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥(きくはいっときのはじ、きかぬはいっしょうのはじ)
・問は一旦の恥、問わぬは末代の恥(とうはいったんのはじ、とわぬはまつだいのはじ)
「下問を恥じず」の故事
「下問を恥じず」は、『論語(ろんご)』公冶長(こうやちょう)に出てくる孔子の言葉にもとづく故事成語です。『論語』は、孔子と弟子たちの問答や言行を記した中国儒教の経典で、二十編から成ります。
もとの漢文では、「不恥下問」と書きます。「下問」は目下の者に問い尋ねること、「不恥」はそれを恥としないことを表します。
この言葉が出てくる場面では、弟子の子貢(しこう)が孔子に尋ねます。子貢は、孔文子(こうぶんし)という人物が、死後にどうして「文」という名で呼ばれたのかを問いました。
孔文子は、古い注釈では衛の大夫で、名を孔叔圉といいます。「文」は諡(おくりな)で、死後にその人の徳や行いをたたえて贈る名です。
孔子は子貢の問いに対して、「敏而好學、不恥下問、是以謂之文也」と答えました。これは、孔文子は頭の働きがよく、学問を好み、目下の者に尋ねることも恥としなかったので、「文」と呼ばれたのだ、という意味です。
この答えで孔子が重んじたのは、知識の量だけではありません。すぐれた立場にある人でも、自分が知らないことを認め、相手が目下であっても学ぼうとする姿勢を大切にしました。
「下問」という言葉は、相手を低く見るための言葉ではなく、古い社会の身分や年齢の上下を前提にした表現です。現在の使い方では、後輩や年下の人、経験の浅い人からでも、学ぶべきことがあれば素直に聞く姿勢を指します。
日本でも、この表現は早くから漢文の教養とともに受け入れられました。平安時代中期の漢詩文集『本朝文粋(ほんちょうもんずい)』(康平年間成立か、藤原明衡撰)には、「不レ恥二下問一」という形の用例が出てきます。
ここでは、漢文のまま「下問を恥じない」という考えが用いられています。『論語』の句が、日本の学問や文章の中でも、人に尋ねて学ぶ態度を表す言葉として読まれていたことが分かります。
後の時代には、「君子は下問を恥じず」という形でも広まりました。これは、立派な人ほど、知らないことを尋ねるのを恥としないという教えを、より分かりやすく述べた形です。
「下問を恥じず」は、単に質問することをすすめる言葉ではありません。自分の立場や面目にこだわって学ぶ機会を失うより、相手から学べることを大切にする態度を表します。
そのため、この故事成語は、先生が生徒から、上級生が下級生から、上司が部下から学ぶような場面にも当てはまります。人の上下ではなく、知っている人から素直に学ぶ心こそが、現在の意味につながっています。
「下問を恥じず」の使い方




「下問を恥じず」の例文
- 校長先生は新しい端末の使い方を若い先生に尋ね、下問を恥じずの姿勢を示した。
- 上級生だからと意地を張らず、後輩の詳しい説明を聞いた彼は、下問を恥じずを実践していた。
- 職人の世界では、年下の弟子からでもよい技を学ぶ下問を恥じずの心が大切だ。
- 部長は新人の提案を丁寧に聞き、下問を恥じずの態度で仕事の進め方を見直した。
- 祖父はスマートフォンの操作を孫に教わり、下問を恥じずという言葉どおりに学んだ。
- 研究を進めるには、自分の専門外のことを下問を恥じずに尋ねる勇気が必要だ。
主な参考文献
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『論語』。
・何晏等『論語集解』。
・藤原明衡撰『本朝文粋』康平年間成立か。























