【ことわざ】
川に水運ぶ
【読み方】
かわにみずはこぶ
【意味】
十分にあるものを、さらに同じ場所へ加えるような、無益なことや無駄な骨折りのたとえ。


【英語】
・carry coals to Newcastle.(すでに十分ある所へ同じものを持っていく)
【類義語】
・屋上屋を架す(おくじょうおくをかす)
・屋下に屋を架す(おくかにおくをかす)
・高みに土盛る(たかみにつちもる)
・雪上霜を加う(せつじょうしもをくわう)
・月夜に提灯(つきよにちょうちん)
【対義語】
・一石二鳥(いっせきにちょう)
・一挙両得(いっきょりょうとく)
「川に水運ぶ」の語源・由来
「川に水運ぶ」は、水の流れている川へ、わざわざ水を運ぶという、目に浮かべやすい行動から生まれたことわざです。川にはもともと水があるため、そこへ水を加えても役に立たない、という発想がもとになっています。
「川」は、地表に集まった水が、傾いた土地のくぼんだ所を流れるものを指します。また、漢字の「川」は、両岸のあいだを水が曲がりくねって流れる形にかたどった字です。
このことわざで大切なのは、「水を運ぶ」という行為そのものが悪いわけではない、という点です。水が足りない場所へ運ぶなら役に立ちますが、水がすでに豊かにある川へ運ぶため、労力の向け先がずれているのです。
形としては、「川に水運ぶ」と助詞を省いた短い形のほか、「川に水を運ぶ」という形でも用いられます。どちらも、水のある川へさらに水を持っていく、という同じたとえを表しています。
この表現は、ただ「苦労する」というだけでなく、「苦労しても役に立たない」という意味を含みます。そのため、努力の量ではなく、努力の向け方が適切かどうかを考えさせることわざです。
同じ発想をもつ言い方に、「屋上屋を架す」があります。屋根の上にさらに屋根をかけても意味がないことから、無駄なことをするたとえとして使われます。
また、「屋下に屋を架す」は、屋根の下にさらに屋根を作るという意味から、むだなことをするたとえです。この表現は『顔氏家訓』序致に由来する言い方として伝わっています。
「高みに土盛る」も近い言い方です。すでに高い場所へさらに土を盛ることから、やっても意味のない骨折りを表します。
「雪上霜を加う」や「雪の上に霜」も、十分にあるものに、さらに同じようなものを重ねるたとえです。「川に水運ぶ」は、水という身近なものを使って、同じ考えをいっそう分かりやすく表しています。
このことわざは、近現代にも「日本のことわざ」の題材として扱われています。たとえば、浅野竹二の木版作品『日本のことわざ[145] 川に水運ぶ』(1977年ごろ)にも、この形が作品名として採られています。
現在では、川や水の話に限らず、すでに片づいている仕事をもう一度する、十分にある物をさらに買い足す、よく分かっている人へ同じ説明をくり返す、といった場面にも使われます。
「川に水運ぶ」は、行動する前に、その努力が本当に必要かを見きわめる大切さを教えることわざです。働きや親切そのものを否定するのではなく、必要な所へ力を向けることの大切さを、短く伝えています。
「川に水運ぶ」の使い方




「川に水運ぶ」の例文
- 全員が資料を持っているのに、同じ資料をもう一度配るのは川に水運ぶようなものだ。
- 冷蔵庫に牛乳が三本あるのにさらに買ってくるとは、川に水運ぶ行動だ。
- 専門家ばかりの会議で初歩的な説明を長く続けるのは、川に水運ぶに近い。
- 掃除が終わった場所をもう一度掃くより、汚れている廊下を手伝うほうがよく、川に水運ぶを避けられる。
- 十分な人手がある受付にさらに係を増やしても、川に水運ぶだけで仕事は進まない。
- 余っている箱をまた注文したせいで、川に水運ぶような無駄が出た。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小川環樹・西田太一郎・赤塚忠ほか編『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA、2017年。
・Cambridge University Press, Cambridge English Dictionary.
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary.























