【故事成語】
棺を蓋いて事定まる
【読み方】
かんをおおいてことさだまる
【意味】
人の真価や評価は、生きている間ではなく、死後になって初めて定まるということ。


【類義語】
・蓋棺事定(がいかんじてい)
・人事は棺を蓋うて定まる(じんじはかんをおおうてさだまる)
・虎は死して皮を残し人は死して名を残す(とらはししてかわをのこしひとはししてなをのこす)
「棺を蓋いて事定まる」の故事
「棺を蓋いて事定まる」は、中国の史書『晋書(しんじょ)』「劉毅伝(りゅうきでん)」に由来する言い方です。『晋書』は、唐の貞観二十二年、648年に成立した二十四史の一つで、房玄齢らが編んだ史書です。
もとの句は「丈夫蓋棺事方定」です。「立派な人物のことは、棺に蓋をしてから、つまり死後になって初めて定まる」という意味です。
この言葉でいう「棺を蓋く」とは、単に葬儀の動作を述べているのではありません。人がこの世でなすことを終え、その人の一生が閉じられたことを表す言い方です。
生きている間の評価は、まわりの利害、感情、流行、立場によって揺れやすいものです。そのため、最後まで生き方を見届けてからでなければ、公平な判断はしにくいという考えが、この故事成語の中心にあります。
この句は、後の詩文にも受け継がれました。唐の詩人杜甫(712〜770年)は、「君不見簡蘇徯」という詩の中で、「丈夫蓋棺事始定」と詠んでいます。
杜甫の詩では、まだ老いていない友人に向かって、深い山中に沈み込んでいる場合ではない、と励ます文脈でこの句が出てきます。死んでから評価が定まるのだから、生きている今はなお世のために働く余地がある、という励ましになっています。
古い注釈書にも、杜甫のこの句を説明する中で、劉毅の「丈夫兒蹤跡不可尋常,便混群小中,蓋棺事方定矣」という言葉が引かれています。これは、人の足跡や生き方は一時の姿だけでは測れず、死後になって事が定まる、という意味につながります。
清代の語句集にも、「蓋棺事定」として、劉毅の「丈夫蓋棺事方定」が挙げられています。ここから、もとの長い句が、四字の「蓋棺事定」や、日本語の「棺を蓋いて事定まる」という形で理解されてきたことが分かります。
日本語では、「棺を蓋いて事定まる」のほか、「棺を蓋いて名定まる」「棺を蓋いて知る」という形もあります。「事」は一生の行い全体、「名」は死後に残る評判や名声に重きを置く表現です。
現在この故事成語を使うときは、死後の名声だけを重んじる言葉としてではなく、一時の評判で人を決めつけない戒めとして受け取るとよいです。ある人の歩みは、途中の成功や失敗だけでなく、最後までの行いを合わせて見なければならない、という教えを含んでいます。
「棺を蓋いて事定まる」の使い方




「棺を蓋いて事定まる」の例文
- 生前は批判も多かった人物だが、棺を蓋いて事定まるで、後世には改革者として評価された。
- 一時の人気だけで人の価値を決めるのは早く、棺を蓋いて事定まるという見方も必要だ。
- その研究者の業績は、亡くなってから広く認められ、まさに棺を蓋いて事定まるであった。
- 政治家の評価は時代によって変わるため、棺を蓋いて事定まるという言葉を思い出す。
- 作家の真価は発表当時の売れ行きだけでは分からず、棺を蓋いて事定まることも多い。
- 人の一生を途中の失敗だけで判断せず、棺を蓋いて事定まると考えて長く見るべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・房玄齢ほか『晋書』648年。
・杜甫『君不見簡蘇徯』唐代。
・翟灝『通俗編』清代。























