【故事成語】
騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず
【読み方】
ききのきょくちょくするはどばのあんぽにしかず
【意味】
すぐれた人でも怠けていれば、平凡な人が着実に努力するのに及ばないというたとえ。すぐれた馬でもぐずぐずしていれば、足ののろい馬が静かに歩み続けるのに及ばないという意味。


【英語】
・Slow but steady wins the race.(ゆっくりでも着実な努力が成功につながる)
【類義語】
・跛鼈千里(はべつせんり)
「騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず」の故事
「騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず」は、中国の歴史書『史記(しき)』「淮陰侯列伝」に出てくる言葉にもとづきます。『史記』は、前漢の司馬遷が著した史書で、前91年ごろに完成したと考えられ、黄帝から前漢の武帝までの歴史を紀伝体で記しています。
「騏驥」は、すぐれた馬、足の速い名馬を指します。「駑馬」は、足ののろい馬、また才能の劣る人のたとえとしても用いられる言葉です。
もとの文は「騏驥之跼躅、不如駑馬之安步」です。「跼躅」はぐずぐずして進まないこと、「安歩」は静かに落ち着いて歩むことを表し、名馬でもためらって進まなければ、のろい馬が着実に歩むことには及ばない、という意味になります。
故事の中心にいるのは、漢の武将、韓信です。韓信は、劉邦の将となって大きな功績を立て、斉王、のち楚王に封ぜられましたが、最後には淮陰侯に左遷され、前196年に殺されました。
韓信が斉の地をおさえ、楚と漢の争いの中で大きな力をもつようになったころ、蒯通が韓信を説得しようとします。『史記』では、天下の形勢が韓信の動きにかかっているとして、韓信が漢につけば漢が勝ち、楚につけば楚が勝つ、と蒯通が述べています。
蒯通は、韓信に天下を三分して独立した勢力となる道をすすめました。強い斉の地をおさえ、燕や趙と連なれば、諸侯が応じるだろうと説き、時機を逃さないように促しました。
しかし、韓信は劉邦から厚く遇された恩を思い、自分だけの利益のために義に背くことはできないと答えます。蒯通はその返事を受けて、功績があまりにも大きい臣下は、かえって主君に恐れられると重ねて忠告しました。
その数日後、蒯通はふたたび韓信を説きます。物事の機会は失いやすく、知っていても、決断して行動しなければ災いのもとになる、と述べました。
この場面で、蒯通は「猛虎之猶豫、不若蜂蠆之致螫;騏驥之跼躅、不如駑馬之安步」と言います。これは、猛虎がためらえば蜂やさそりが刺すことにも及ばず、名馬が足ぶみすれば駑馬の静かな歩みに及ばない、というたとえです。
蒯通の言葉の核心は、能力の高さだけでは物事は成しとげられない、という点にあります。すぐれた力があっても、ためらって動かなければ、その力は働かず、結局は小さくても確実な行動に劣るのです。
『史記』の同じ段落には、「此言貴能行之」とあります。これは、こうした言葉は実際に行うことを尊ぶという意味で、知識や才能よりも、決断し実行することを重んじる文脈で使われています。
その後、韓信はなお迷い、漢に背くことを忍びませんでした。蒯通の説得は受け入れられず、韓信は後に淮陰侯へ落とされ、さらに反逆の疑いの中で命を失うことになります。
この故事から、「騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず」は、才能のある人が何もしないことより、平凡な人がこつこつ進むことのほうが価値をもつ、という意味で用いられるようになりました。単に「遅くてもよい」というだけでなく、「すぐれた力も実行されなければ役に立たない」という戒めを含んでいます。
「騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず」の使い方




「騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かず」の例文
- 読書が得意でも本を開かなければ、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずで、毎日読む友人にはかなわない。
- 足が速い選手でも練習を怠れば、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずという結果になる。
- 才能に頼って課題を先のばしにする姿は、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずそのものだ。
- 平凡な方法でも毎日続けた研究は、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずを示す成果につながった。
- 絵の才能がある兄より、毎日描き続けた妹のほうが上達し、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずを思わせた。
- 能力の高さだけで安心して行動しないなら、騏驥の跼躅するは駑馬の安歩に如かずである。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・三省堂編修所編『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・司馬遷『史記』前漢、前91年ごろ。
・『荀子』戦国時代末期。
・Dictionary.com Unabridged, based on Random House Unabridged Dictionary, 2023.























