【ことわざ】
傷口に塩
【読み方】
きずぐちにしお
【意味】
悪いことが起きてつらいところへ、さらに悪いことが重なることのたとえ。


【英語】
・rub salt in/into the wound.(困った状況をさらに悪くする)
【類義語】
・泣き面に蜂(なきつらにはち)
・弱り目に祟り目(よわりめにたたりめ)
・切身に塩(きりみにしお)
【対義語】
・禍を転じて福と為す(わざわいをてんじてふくとなす)
「傷口に塩」の語源・由来
「傷口に塩」は、傷が痛んでいるところへさらに塩を塗りこむ、という具体的なたとえから生まれたことわざです。もとの発想は、体の痛みが増す実感をもとにして、心や暮らしのつらさが重なることへ意味を広げたものです。
「塩」は、古くから食用だけでなく、外用にも用いられてきた身近なものです。近世には、傷口消毒、打身、くじき、あかぎれなどに、塩や塩水・塩湯を用いた例があり、塩が体の痛みと結びついて考えられやすい背景がありました。
この発想は、非常に古い歌にも出てきます。『万葉集』(8世紀後半成立、奈良時代、編者未詳)は、現存最古の歌集で、約4500首の歌をおさめています。
『万葉集』巻五・897番には、「痛き傷には辛塩を注くちふがごとく」という表現が出てきます。これは、痛む傷に辛い塩を注ぐように、老いた身に病が加わり、苦しみがますます重くなるという文脈で使われています。
この歌では、実際の傷の痛みに塩が加わる苦しさを、老いと病の重なりにたとえています。現在の「傷口に塩」と同じく、すでにつらいところへさらに苦しみが加わる、という考え方がはっきり表れています。
後の時代には、近い形の言い方として「切身に塩」が用いられました。「切身に塩」は、傷口に塩をこすりつけるように、痛い上にさらに痛さを加えること、転じて打撃の上にさらに打撃を受けることを表します。
「切身に塩」の古い用例として、『加賀見山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)』(1782年・江戸時代後期、容楊黛作)に「切身に塩が染み」という形が出てきます。この作品は、天明2年に江戸外記座で初演された浄瑠璃です。
この用例では、すでに身にしみてつらい出来事に、さらに思い当たる苦しさが加わる様子を表しています。つまり、塩が傷にしみるという具体的な痛みが、心の痛みや不運の重なりを表す比喩として使われています。
現在の「傷口に塩」は、「傷口に塩を塗る」「傷口に塩を塗りこむ」という形でも使われます。どの形でも、よい意味ではなく、すでに困っている人やつらい状況に、さらに追い打ちをかけることを表します。
そのため、このことわざは、単に悪いことが二つ起きたというだけでなく、前の痛みがまだ残っているところに、さらに痛みを増す出来事が重なる場合に合います。相手のつらさを強める言動にも使われるため、人に向けて使うときは配慮が必要なことわざです。
「傷口に塩」の使い方




「傷口に塩」の例文
- 財布を落としたうえに雨まで降り出し、まさに傷口に塩の一日だった。
- 試験に失敗して落ち込んでいる友人を責めるのは、傷口に塩を塗るようなものだ。
- 店の売り上げが下がっているところへ修理費まで重なり、傷口に塩の状況になった。
- けがで試合に出られない選手に敗戦の責任を問うのは、傷口に塩だ。
- 発表で失敗したあとに資料の印刷ミスまで見つかり、傷口に塩の結果となった。
- 引っ越しの荷物が届かないうえに電気の手続きも遅れ、傷口に塩のような初日だった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・尚学図書編『故事俗信ことわざ大辞典』小学館、1982年。
・『万葉集』8世紀後半成立。
・容楊黛『加賀見山旧錦絵』1782年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.』























