【故事成語】
貴は驕と期せずして驕自ずから来る
【読み方】
きはきょうときせずしてきょうおのずからきたる
【意味】
身分や地位が高くなると、本人がそう望まなくても、自然に驕り高ぶる心が生じやすいということ。


【英語】
・Pride comes before a fall.(高慢は失敗のもと)
【類義語】
・富貴は驕奢を生ず(ふうきはきょうしゃをしょうず)
・驕る平家は久しからず(おごるへいけはひさしからず)
【対義語】
・富貴も淫する能わず、貧賤も移す能わず(ふうきもいんするあたわず、ひんせんもうつすあたわず)
「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」の故事
「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」は、中国古典に根をもつ戒めの言葉です。「期する」は、あらかじめ約束する、期待するという意味をもち、「期せずして」は、そうしようと約束したわけではないのに、という意味を表します。
この表現のもとには、『書経(しょきょう)』「周官」にある「位不期驕、祿不期侈」という考えがあります。これは、位が高くなることは驕りを約束しているわけではなく、俸禄が多くなることはぜいたくを約束しているわけではない、という意味です。
この一節に付けられた古い注には、「貴不與驕期,而驕自至;富不與侈期,而侈自來」とあります。身分の高さは驕りと約束するわけではないが、驕りは自然にやって来る、富はぜいたくと約束するわけではないが、ぜいたくは自然にやって来る、という意味です。
『書経』のこの部分は、官位にある人々を戒める文脈で述べられています。高い地位や多い俸禄そのものを悪いものとするのではなく、それによって心がゆるみ、慎みを失う危険を説いています。
また、劉向の『説苑(ぜいえん)』(前漢、劉向撰)は、君主や臣下の戒めとなる古い話を集めた書物です。全二十巻から成り、政治や身の修め方について考えさせる故事を多く収めています。
『説苑』「敬慎」には、魏公子牟が穰侯に戒めを述べる場面があります。魏公子牟は、官職が勢いを招き、勢いが富を招き、富が貴さを招き、さらに貴さが驕りを招く、と段階を追って語ります。
その言葉の中に、「貴不與驕期,而驕自至乎」とあります。貴い身分は驕りと約束していないのに、驕りは自然に至るのではないか、という意味です。
同じ『説苑』「談叢」にも、「貴不與驕期驕自來」とあり、続けて「驕不與亡期亡自至」とあります。貴さが驕りを自然に招き、驕りが滅亡を自然に招くという、さらに厳しい連なりで戒めています。
この流れから見ると、「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」は、単に「偉くなると威張る」という軽い人物評ではありません。地位が高くなるほど、自分では気づきにくい心の変化に注意しなければならない、という政治的・道徳的な戒めを含んでいます。
後の史書『資治通鑑』(しじつがん、北宋、1084年、司馬光編)にも、「貴不期驕、富不期侈、非虚言也」という形が出てきます。唐の太宗に対して魏徴が上書し、善を求める心が以前ほどではなくなったと戒める文脈で用いられています。
その上書では、隋が富強でありながら危うくなり、唐がまだ弱い時期にかえって安定したことが対比されています。富や地位を得たあとこそ、驕りやぜいたくが国を危うくするという、歴史をふまえた戒めになっています。
日本語の「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」は、これらの漢籍にある「貴不與驕期」「貴不期驕」の考えを、訓読調で受けた形です。「自ずから来る」という言い方には、心がけて招いたわけではないのに、地位の高さにともなって驕りがしのび寄るという意味がこめられています。
この故事成語は、成功した人や地位を得た人をただ責めるための言葉ではありません。人はよい立場に立つほど、知らないうちに態度が変わることがあるため、いっそう謙虚さと慎みを保つ必要がある、と教えています。
「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」の使い方




「貴は驕と期せずして驕自ずから来る」の例文
- 部長になったとたん人の意見を聞かなくなった彼を見て、貴は驕と期せずして驕自ずから来ると思った。
- 貴は驕と期せずして驕自ずから来るという言葉は、成功した人ほど謙虚でいるべきだと教えている。
- 父は昇進した兄に、貴は驕と期せずして驕自ずから来るから周囲への感謝を忘れるなと諭した。
- 小さな権限でも乱用すれば、貴は驕と期せずして驕自ずから来るという戒めが当てはまる。
- その社長は貴は驕と期せずして驕自ずから来るを心に留め、社員の声を聞く時間を大切にした。
- 貴は驕と期せずして驕自ずから来るという故事成語は、地位が人の心に与える影響を鋭く示している。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・白川静『字通 普及版』平凡社、2014年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・劉向『説苑』前漢。
・『書経』。
・司馬光『資治通鑑』1084年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























