【ことわざ】
口に使われる
【読み方】
くちにつかわれる
【意味】
食べて暮らすために、あくせく働くこと。生活を支えるために苦労して働くこと。


【英語】
・work hard to make ends meet.(どうにか暮らしを立てるために懸命に働く)
【類義語】
・口ゆえに使われる(くちゆえにつかわれる)
・食おうとて痩せる(くおうとてやせる)
「口に使われる」の語源・由来
「口に使われる」の「口」は、顔にある器官だけを指すのではありません。口が食べ物を取り入れるところであることから、古くは「飲食すること」や「暮らしを立てること」まで表すようになりました。このことわざでは、「口」が食事や生活そのものを意味しています。
「口」を暮らしの意味で用いる例は、井原西鶴(いはらさいかく)の俳諧集『西鶴大矢数(さいかくおおやかず)』(1681年・江戸時代前期)にもあります。そこでは、「口を過ぐ」という言い方で、食べて生活していくことを表しています。このように、「口」と日々の暮らしとを結び付ける言葉の使い方は、江戸時代にはすでに広く行われていました。
一方、「使われる」は、人から命令されて働かされることを表す受け身の言い方です。これを「口」と組み合わせることで、食べ物を求める口が主人となり、人の体を働かせているかのように表しています。自分の望みで自由に働くというよりも、食べていく必要に迫られ、口のために体を働かせなければならないという、少し皮肉を含んだ言い回しです。
現在の形に近い古い用例は、十返舎一九著『従木曽路善光寺道続膝栗毛(きそじよりぜんこうじみちぞくひざくりげ)』八編上巻(1816年・江戸時代後期)に出てきます。この作品は、弥次郎兵衛と喜多八の旅を描いた『続膝栗毛』の一編で、作中には、用事を言い付けられた人物が不平をこぼしながら、「是も口に使はれるのだな」と語る場面があります。
この言葉は、食べていかなければならない以上、嫌な仕事でも引き受けざるを得ないという意味で使われています。単に「人に使われる」のではなく、その背後にある理由を「口」、すなわち生活の必要に求めている点が、現在の意味とよく重なります。
同じ考え方を表す言い方には、「口ゆえに使われる」があります。「口ゆえに」と言うことで、食べていく必要があるために働かされるという原因をいっそうはっきり示しています。また、「食おうとて痩せる」は、食べ物を得ようとして苦労して働いた結果、かえって体が痩せてしまうという皮肉を表す言葉です。
このように、「口に使われる」は、食べるためには働かなければならないという生活の厳しさを、口が人を働かせるという姿に置き換えたことわざです。暮らしを支えるために休む間もなく働く人の苦労を、短い言葉の中に鮮やかに表しています。
「口に使われる」の使い方




「口に使われる」の例文
- 食費を稼ぐために休日も働く彼は、まさに口に使われる毎日を送っている。
- 家族の暮らしを守ろうと二つの仕事を掛け持ちする姿は、口に使われるという言葉に重なる。
- 景気が悪く、店主は口に使われる思いで朝から晩まで店を開けた。
- 収入のほとんどが食費と家賃に消え、口に使われるように働く日々が続いた。
- 生活のためだけにあくせく働く自分を、彼は口に使われると苦笑した。
- 豊かな暮らしを夢見ていたが、現実には口に使われるだけで精いっぱいだった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』全3巻、小学館、2006年。
・学研辞典編集部編『用例でわかる故事ことわざ辞典』学習研究社、2005年。
・Cambridge University Press『Cambridge Learner’s Dictionary』Cambridge University Press.
・十返舎一九『従木曽路善光寺道続膝栗毛 八編』1816年。























