【ことわざ】
暗がりに鬼を繋ぐ
【読み方】
くらがりにおにをつなぐ
【意味】
正体や内情がはっきり分からず、何となく気味が悪いことのたとえ。


【類義語】
・暗がりの鬼(くらがりのおに)
・暗隅に鬼を繋ぐ(くらすみにおにをつなぐ)
【対義語】
・幽霊の正体見たり枯れ尾花(ゆうれいのしょうたいみたりかれおばな)
「暗がりに鬼を繋ぐ」の語源・由来
「暗がり」は、光が届かず、物の形がよく分からない場所を指します。また、古くは、人目につかない所や、他人には知られていない内情を表すこともありました。そこへ、人に恐れられる「鬼」をつないでおくという光景を重ねたのが、「暗がりに鬼を繋ぐ」です。
明るい場所なら、つながれているものの姿や大きさを確かめられます。しかし、暗がりでは、それがどのような鬼なのか、どれほどの力をもつのか、縄がしっかりしているのかさえ分かりません。このように見通しがきかないことへの恐ろしさが、正体や内情の分からないものに対する不気味さのたとえになっています。
早い用例は、井原西鶴の浮世草子『日本永代蔵(にっぽんえいたいぐら)』(1688年・江戸時代前期、井原西鶴著)巻四に出てきます。『日本永代蔵』は、才覚や倹約によって富を築く町人と、放蕩や驕りによって財産を失う町人とを描いた作品です。
その一節では、江戸のある商人について、表向きは目立たない様子でありながら、家の内実は非常に強いことを「闇に鬼をつなぐがごとく」と表しています。外からは財産の大きさも商売の力も分からないのに、内側には並外れた力が隠れているという場面です。
この古い用例では、単に恐ろしい何かが潜んでいるというだけではありません。正体を見せないまま、外からは測り知れない力を蓄えている人物の不気味さが、「暗がり」と「鬼」の組み合わせによって表されています。現在の「内情が分からず気味が悪い」という意味につながる使い方です。
さらに、井原西鶴の『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692年・江戸時代前期、井原西鶴著)巻五の「平太郎殿」にも、このことわざが出てきます。『世間胸算用』は、大晦日を舞台に、金銭をめぐって懸命に暮らす町人たちの喜びや苦しみを描いた、二十話からなる作品です。
「平太郎殿」では、大晦日と節分が同じ日になり、借金の取り立てや厄払いが行われるなか、銀を量る天秤の音、豆まきの声や物音が夜の町に入り交じります。その騒がしく落ち着かない夜を、西鶴は「くらがりに鬼つなぐとは今宵なるべし、おそろし」と表しました。
ここでは、一人の人物の隠れた実力ではなく、暗い夜の中で何が起こっているのかつかみにくい、町全体の不気味な様子を表しています。姿の分からないものや正体不明の物音が暗がりに重なり、まるで見えない鬼がつながれているように思われる場面です。
古くは「闇に鬼をつなぐ」と書かれた例があり、後には「暗がりに鬼を繋ぐ」という形が定着しました。また、「暗隅に鬼を繋ぐ」や、短くした「暗がりの鬼」という言い方もあります。いずれも、暗いために正体がつかめず、恐ろしさや不安が増すという、同じ発想に基づいています。
このように、「暗がりに鬼を繋ぐ」は、見た目が恐ろしいものを表す言葉ではありません。実体や内情が隠れていて、どのような力や危険が潜んでいるのか分からないときに、その測り知れなさと不気味さを言い表すことわざです。
「暗がりに鬼を繋ぐ」の使い方




「暗がりに鬼を繋ぐ」の例文
- 経歴も資金源も明かさないその実業家には、暗がりに鬼を繋ぐような不気味さがあった。
- 無人のはずの別荘から毎晩明かりが漏れるため、近所の人々は暗がりに鬼を繋ぐ思いで建物を眺めていた。
- 交渉相手がどれほどの権限をもつ人物なのか分からず、会議は暗がりに鬼を繋ぐような緊張に包まれた。
- 正体不明の人物から脅迫状が届き続ける状況は、まさに暗がりに鬼を繋ぐようであった。
- 侵入者の目的も手口も特定できないままでは、社内の通信網に暗がりに鬼を繋ぐのと変わらない。
- 山奥の研究施設で何が行われているのか誰も知らず、暗がりに鬼を繋ぐようなうわさだけが広がった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典 全三巻』小学館、2005〜2006年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・井原西鶴『日本永代蔵』1688年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・石上敏「暗越奈良街道と芭蕉―東大阪市における文化の論として―」『大阪商業大学論集』第16巻第2号、2020年。























