【ことわざ】
居候三杯目にはそっと出し
【読み方】
いそうろうさんばいめにはそっとだし
【意味】
他人の家に世話になっている者は、食事のおかわりにも遠慮しがちになること。居候の肩身の狭さをいう。


【英語】
・fish and company stink after three days(長居する客はやがて歓迎されなくなる)
【類義語】
・居候の三杯目(いそうろうのさんばいめ)
【対義語】
・遠慮会釈もない(えんりょえしゃくもない)
・厚顔無恥(こうがんむち)
「居候三杯目にはそっと出し」の語源・由来
「居候三杯目にはそっと出し」は、中国の古い故事ではなく、日本の暮らしの中から生まれたことわざです。食事代を出さずに他人の家に世話になっている身では、たとえご飯のおかわりでも遠慮が出る、という日常の場面をもとにしています。
「居候」は、もともと近世の公文書で、ある家に同居している人を示す肩書として用いられた言葉です。享保20年(1735年・江戸時代中期)の『徳川禁令考』後集には、「右仁右衛門方に居候 善次郎」という形が出てきます。
この段階の「居候」は、まず「その家にいる人」「同居している人」を示す実務的な言い方でした。そこから、他人の家に身を寄せて養ってもらう人、つまり食客や厄介になっている人を指す意味へ広がりました。
安永4年(1775年・江戸時代中期)の『川柳評万句合』には、「かんしんが所にも壱人居候」という用例が出てきます。このころには、単なる同居人というより、他人の家に身を置いて世話になる人を指す言葉としての意味が強まっていました。
このことわざの中心には、居候という立場の「肩身の狭さ」があります。家に置いてもらい、食事まで受けている人は、自分の家のようにふるまいにくく、頼みごとや食事のおかわりにも気をつかうことになります。
「三杯目」は、ただ多すぎる食事の量を責めるための数字ではありません。かつての食卓では、飯を三杯食べることは特別に珍しい量ではありませんでしたが、居候の身では、それでも三杯目を堂々とは出しにくい、というところにこのことわざのおかしみがあります。
また、「三」はことわざの中で区切りを表しやすい数です。一杯目、二杯目まではまだ自然でも、三杯目になるとさすがに気が引けるという流れが、聞き手にすぐ伝わる形になっています。
由来としては、川柳の「居候三杯目にはそっと出し」から広まった形です。ご飯のおかわりの茶碗を出すだけの動作を、あえて「そっと」と表すことで、遠慮、気まずさ、立場の弱さが一度に伝わります。
川柳は、五七五の短い形で、人情や世相を滑稽にとらえる文芸です。江戸時代には前句付から独立した句が広まり、『誹風柳多留(はいふうやなぎだる)』(1765〜1840年刊、呉陵軒可有ほか編)のような川柳集を通じて、庶民の暮らしやものの見方が短い言葉で表されるようになりました。
「居候三杯目にはそっと出し」も、そのような川柳らしい観察から生まれた言い方です。居候をただ非難するのではなく、三杯目の茶碗を出す小さな動作に、人に世話になる者の遠慮を映している点に、このことわざの味わいがあります。
後の時代には、三浦綾子の随想『生きること 思うこと』(1972年・昭和47年)にも「居候、三杯目にはそっと出し」という形で用いられています。近代以後も、他人の家で世話になる人の遠慮を表す言葉として、よく通じることわざになりました。
現在では、実際にご飯を三杯食べる場面だけに限らず、人の厚意に頼っている立場なら、言動を控えめにしたほうがよいという意味で使われます。自分の立場をわきまえ、相手への感謝を忘れないことを、少し皮肉をこめながら教えることわざです。
「居候三杯目にはそっと出し」の使い方




「居候三杯目にはそっと出し」の例文
- 叔父の家にしばらく世話になっている兄は、食事のたびに居候三杯目にはそっと出しの態度を忘れない。
- 友人宅に泊めてもらった彼は、居候三杯目にはそっと出しと思い、洗濯や掃除を進んで手伝った。
- 長く親戚の家にいるなら、居候三杯目にはそっと出しというように、遠慮と感謝を忘れてはならない。
- 食費も払わずに毎晩ごちそうになるのは、居候三杯目にはそっと出しを知らないふるまいだ。
- 祖母は、他家に身を寄せるときは居候三杯目にはそっと出しの心が大切だと教えてくれた。
- 彼は居候三杯目にはそっと出しのつもりで、三杯目のおかわりを頼む前に台所の片づけを申し出た。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一「居候三杯目にはそっと出し:ことわざと川柳の交錯」『青淵』807号、渋沢栄一記念財団、2016年。
・呉陵軒可有ほか編『誹風柳多留』1765〜1840年。























