【故事成語】
入るを量りて出ずるを為す
【読み方】
いるをはかりていずるをなす
【意味】
収入の額をよく計算し、それに応じて支出の計画を立てること。


【英語】
・live within one’s means(自分の収入の範囲内で暮らす)
・Stretch your arm no further than your sleeve will reach(袖の届くところより遠くへ腕を伸ばすな)
【類義語】
・量入制出(りょうにゅうせいしゅつ)
・量入為出(りょうにゅういしゅつ)
・出ずるを量りて入るを制す(いずるをはかりているをせいす)
【対義語】
・赤字(あかじ)
「入るを量りて出ずるを為す」の故事
「入るを量りて出ずるを為す」は、中国古典『礼記(らいき)』の「王制」にもとづく故事成語です。『礼記』は、古代中国の礼に関する説をまとめた経書で、周末から秦・漢にかけての諸儒の説を整理した書物とされ、前漢の戴聖が改修して成立したと伝えられています。
もとの漢文は「量入以為出」です。「入るを量りて、以て出ずるを為す」と読み下し、入ってくる量をよくはかってから、出ていく量を決めるという意味になります。
「王制」は、王が国を治める制度や、国家のきまりを述べる篇です。この言葉は個人の家計ではなく、もとは国の財政をどう定めるかという文脈の中に出てきます。
原典では、冢宰(ちょうさい:国の政務をつかさどる官)が国の費用を決めるのは年末であり、五穀がすべて収穫されたあとに国用を定める、と述べています。つまり、作物の収穫がどれほどあったかを見ないうちに、支出を先に決めてはならないという考えです。
さらに、土地の大小やその年の豊作・不作を見くらべ、三十年間の平均をもとに国の費用を決める、と続きます。ここでいう「三十年の通」は、長い期間をならして見た平均を指し、一年だけの豊作や不作に振り回されないための考え方です。
その流れの中で、「量入以為出」、すなわち「入るを量りて出ずるを為す」という言葉が置かれています。収入を見きわめ、その範囲に合うように支出を定めることが、国の財政を安定させる方法として示されています。
続く部分には、祭りの費用や喪の費用にも限度があること、足りなければ「暴」といい、余りがあれば「浩」ということ、豊年でもぜいたくせず、凶年でも粗末にしすぎないことが述べられています。これは、収入に合わせて支出を整えるだけでなく、必要なことには一定の支えを保つという考えにもつながっています。
この故事成語の大切な点は、「節約せよ」という一言だけではありません。まず入ってくるものを正しく見積もり、次に使うものを計画するという順番を守るところに、意味の中心があります。
日本語では、「入るを量りて出ずるを為す」のほか、「入るを量りて出ずるを制す」「出ずるを量りて入るを制す」という異形も伝わっています。どちらも、収入と支出のつり合いを考える言い方として用いられます。
日本での古い用例としては、『政談(せいだん)』(1727年ごろ・江戸時代中期、荻生徂徠著)に「公儀の御使用、入るを量て出るを校れば、早出る方多く成て」とあります。公の支出を収入と比べると、支出のほうが多くなっている、という趣旨の文脈です。
この用例では、古典の言葉が江戸時代の政治や財政を考える文章の中で使われています。中国古典の国家財政の考え方が、日本でも公の費用や政治のあり方を論じる言葉として受け入れられていたことが分かります。
現在では、国や会社の予算だけでなく、家庭の生活費、学校の行事費、部活動の遠征費などにも使うことができます。先に「これだけ使いたい」と決めるのではなく、「どれだけ入るか」を見てから「どれだけ出せるか」を決める、という堅実な考え方を表す故事成語です。
「入るを量りて出ずるを為す」の使い方




「入るを量りて出ずるを為す」の例文
- 町内会の夏祭りでは、寄付金の見込みを確かめてから出店費を決め、入るを量りて出ずるを為す方針を守った。
- 新しい部活動のユニフォームを作る前に、集まる会費を計算するのは、入るを量りて出ずるを為す考えにかなう。
- 会社は売り上げの予測を甘くせず、入るを量りて出ずるを為す姿勢で設備投資を進めた。
- 家計を安定させるには、欲しい物を先に決めるのではなく、入るを量りて出ずるを為すことが大切だ。
- 修学旅行の自主研修では、班の予算を確認してから食事代を決め、入るを量りて出ずるを為すように計画した。
- 国の予算を考えるときにも、入るを量りて出ずるを為すという古い教えは、今なお重要な意味をもつ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・戴聖編『礼記』。
・荻生徂徠『政談』1727年ごろ。























