【故事成語】
一日の長
【読み方】
いちじつのちょう/いちにちのちょう
【意味】
他人より少し年上であること。転じて、経験・知識・技能などが、他の人より少しすぐれていること。


【英語】
・have been at it a little longer than …(…より少し長くそのことに携わっている)
【類義語】
・年の功(としのこう)
・亀の甲より年の功(かめのこうよりとしのこう)
【対義語】
・団栗の背比べ(どんぐりのせいくらべ)
・五十歩百歩(ごじっぽひゃっぽ)
「一日の長」の故事
「一日の長」は、中国古典『論語(ろんご)』の「先進(せんしん)」篇に由来する故事成語です。『論語』は、孔子(こうし)の言行や、孔子と弟子たちとの問答を記録した書物で、孔子の死後、弟子やその後の門人たちの手によってまとめられたと考えられています。
もとになった場面では、子路(しろ)、曾皙、冉有、公西華が孔子のそばに座っています。孔子は弟子たちに対して、「以吾一日長乎爾,毋吾以也」と語り、自分が弟子たちより少し年上だからといって、遠慮しなくてよい、と促します。
この「一日長」は、文字どおりには「一日だけ長じている」、つまり「ほんの少し年長である」という意味です。孔子は、自分の年齢や立場を大きく見せるためではなく、むしろ「少し年上であることを気にせず、思っていることを話しなさい」と、弟子たちの気持ちをほぐすためにこの言い方を用いています。
『論語』のこの章は、弟子たちがそれぞれの志を語る長い問答へ続きます。子路は国を治める力を、冉有は民を豊かにする力を、公西華は礼に関わる役目を述べ、曾皙は春の日に人々と水辺で過ごし、歌って帰るような穏やかな理想を語ります。孔子が最終的に曾皙の言葉に深くうなずく流れの中で、冒頭の「一日長」は、師が弟子たちに自由に語らせるための前置きとして働いています。
このように、原典での「一日の長」は、まず「少し年上であること」を指す表現でした。そこから、年齢が少し上であることだけでなく、経験を少し多く積んでいること、知識や技能で少し先に進んでいることを表す言い方へ広がりました。
日本語では、「いちじつのちょう」と「いちにちのちょう」の両方の読みが使われてきました。古い漢籍に由来することから「いちじつ」と読む形がよく用いられる一方、明治・大正期の文学作品には「いちじつ」「いちにち」の両方の読みが出てきます。
近代の用例では、徳富蘆花『思出の記』(1900〜1901年)に「一日(イチニチ)の長」、森鴎外『雁』(1911〜1913年)に「一日(イチジツ)の長」の形が出てきます。ここでは、原典の「少し年上」という意味から進んで、知識や経験の面で他人より少しすぐれているという意味で使われています。
現在の「一日の長」は、相手を大きく下に見る言葉ではありません。むしろ、経験の差を控えめに言う表現です。「この仕事では先に経験している分、一日の長がある」のように、少しだけ先に学んだこと、少しだけ長く続けてきたことが、判断や技術の差になる場面で自然に用いられます。
「一日の長」の使い方




「一日の長」の例文
- 将棋を先に習い始めた兄には、序盤の指し方で一日の長がある。
- この店の仕入れを長く担当してきた店長には、品物を見分ける目に一日の長がある。
- 同じ新人でも、学生時代に接客を経験した彼には一日の長がある。
- 祖母は料理の火加減をよく知っており、家族の中で一日の長がある。
- 発表の準備では、昨年も司会を務めた生徒に一日の長があった。
- 地域の道を歩き慣れている父には、近道を選ぶ点で一日の長がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『論語』。























