【ことわざ】
色気より食い気
【読み方】
いろけよりくいけ
【意味】
恋愛や異性への関心よりも、食べることへの関心が先に立つこと。転じて、見栄や外見よりも実利を選ぶこと。


【英語】
・I prefer food to romance(恋愛より食べ物を好む)
【類義語】
・花より団子(はなよりだんご)
・名を捨てて実を取る(なをすててじつをとる)
・詩を作るより田を作れ(しをつくるよりたをつくれ)
【対義語】
・得を取るより名を取れ(とくをとるよりなをとれ)
「色気より食い気」の語源・由来
「色気より食い気」は、「色気」と「食い気」を対にして、恋愛や異性への関心よりも、食べたい気持ちが先に立つことを表したことわざです。「色気」は恋愛・色恋への関心を表し、「食い気」は食べたいと思う気持ち、つまり食欲を表します。
この言葉の面白さは、人間の気持ちを上品に飾らず、生活の実感に近いところで言い表している点にあります。どれほど恋や見た目を気にしていても、空腹になれば食べることが先になる、という素朴な人間観が土台にあります。
古い用例としては、『助六廓夜桜(すけろく くるわのよざくら)』(1779年・江戸時代中期、江戸・中村座初演)に、「おいらは色気より食気(くひけ)、どうやら口ざみしくなったぢゃアねえか」という形が出てきます。ここでは、色恋よりも、何か口に入れたい気持ちが前に出る場面の言葉として使われています。
この古い用例では、現在よく書く「食い気」ではなく、「食気(くひけ)」という表記が用いられています。「くひけ」は現代仮名遣いでは「くいけ」となり、表記も「食い気」と書く形が分かりやすくなりました。
「食気」という言葉そのものは、食べ物を欲しいと思う気持ちを表します。古い表記では「食気」と書いて「くひけ」「くいけ」と読ませる形があり、そこから現代の「食い気」という、より意味が直感的に伝わる表記へとつながっています。
『助六廓夜桜』は歌舞伎・浄瑠璃の外題として伝わる作品名です。助六物は、吉原を舞台にした華やかな歌舞伎の世界と結びついており、色恋や粋なふるまいが前面に出やすい場を背景としています。その中で「色気より食気」という言い方が出るため、恋や粋よりも空腹が勝つというおかしみが、いっそうはっきりします。
このことわざは、はじめは文字どおり「色恋より食べること」という意味で働いていました。しかし、後には「見栄より実利を取る」という意味にも広がります。つまり、恋愛と食欲の対比から、外見や体裁と実際の利益との対比へ、使い方が広がったのです。
近代の用例としては、中里介山の長編小説『大菩薩峠(だいぼさつとうげ)』(1913〜1941年発表、未完)に、「色気より食い気ざかりで是非もないことです」という形が出てきます。この段階では、すでに日常の人間のありさまを言うことわざとして通じる形になっています。
また、このことわざには「花より団子」と近い面があります。「花より団子」は、見た目や風流より実利や実質を重んじることを表しますが、「色気より食い気」は、恋愛や色恋への関心よりも食べることを優先する点に、より生活感のあるおかしみがあります。
現在では、食べることが好きな人を軽くからかう場面や、見た目より中身、体裁より役立つものを選ぶ場面で使われます。ただし、人を下品に笑うための言葉ではなく、人間らしい欲求を少しユーモラスに言い表すことわざとして受け取るのがふさわしい表現です。
「色気より食い気」の使い方




「色気より食い気」の例文
- 花火大会で浴衣の着こなしを気にするより屋台の焼きそばに向かった弟は、まさに色気より食い気だった。
- 友人は初めてのデートでもしゃれた店の雰囲気より大盛りの定食を喜び、色気より食い気を地で行っていた。
- 文化祭の劇で王子役の衣装を着ても、控室の差し入れにばかり目が向く彼は、色気より食い気そのものだった。
- 旅行先で写真映えする景色より名物料理を優先する姉には、色気より食い気という言葉がよく合う。
- 高価な包装より中身の量を見て土産を選ぶ母は、色気より食い気の考えで買い物をしていた。
- 歓迎会であいさつの順番より料理の皿を気にしていた新人は、色気より食い気だと笑われた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・野島寿三郎編『歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典』日外アソシエーツ、1990年。
・中里介山『大菩薩峠』1913〜1941年。























