【故事成語】
遠慮なければ近憂あり
【読み方】
えんりょなければきんゆうあり
【意味】
遠い将来のことを考えず、目先のことばかりに気を取られていると、必ず急な心配事が起こるということ。


【英語】
・Look before you leap(行動する前に、悪い結果や問題が起こらないか考えよ)
【類義語】
・遠慮近憂(えんりょきんゆう)
・備えあれば憂いなし(そなえあればうれいなし)
・深謀遠慮(しんぼうえんりょ)
【対義語】
・後先見ず(あとさきみず)
・刹那主義(せつなしゅぎ)
「遠慮なければ近憂あり」の故事
「遠慮なければ近憂あり」は、中国古典『論語』の「衛霊公第十五」に出てくる言葉にもとづく故事成語です。もとの文は「子曰、人無遠慮、必有近憂」で、書き下すと「子曰く、人遠き慮り無ければ、必ず近き憂あり」となります。
『論語』は、古代中国の思想家である孔子の言行や、孔子と弟子たちとの問答を記した書物です。孔子の死後、門弟によって編纂されたと推定され、二十篇から成る儒教の基本的な経典として読まれてきました。
この句の「人無遠慮」は、人に遠い将来を見通す思慮がない、という意味です。「必有近憂」は、そうであれば、必ず近いところに心配事が起こるという意味です。
ここでいう「遠慮」は、現在の「遠慮する」「気がねする」という意味ではありません。古い意味では、遠い将来のことを思慮に入れて考えをめぐらすことを表します。
つまりこの言葉は、目の前のことだけを見ていると、思いがけない問題がすぐ近くに起こる、という戒めです。遠く先のことを考えることが、かえって目の前の心配を少なくする、という考え方がこめられています。
『論語』の注釈では、この章について、君子はよく考えてあらかじめ防ぐべきだという解釈が伝えられています。また、遠い先まで考えなければ、憂いや患いがすぐ近くに来る、という説明も重ねられてきました。
後の時代には、この句を短くまとめた「遠慮近憂」という四字の形も用いられるようになりました。「遠慮近憂」は、遠い将来のことまで考えをめぐらせておかないと、身近なところに心配事が起こるという意味です。
日本でも、この言葉は早くから漢籍の教えとして受け入れられました。室町時代中期の『文明本節用集』にも用例があり、目先だけに気を取られないようにする教えとして定着していきました。
近代には、渋沢栄一も『実験論語処世談』の中でこの章を取り上げました。そこでは、現在が無事であると思って油断し、将来どうなるかを考えずにいると、憂うべきことが目の前に来るという趣旨で説かれています。
この故事成語は、単に「心配しすぎなさい」という意味ではありません。むしろ、早めに考え、準備し、見通しをもって行動することで、近くの問題を防ごうとする実際的な教えです。
現在では、勉強、仕事、旅行、家計、健康管理など、さまざまな場面で使うことができます。遠くを見て備えることが、身近な安心につながるという意味で、今でも分かりやすい教訓として生きています。
「遠慮なければ近憂あり」の使い方




「遠慮なければ近憂あり」の例文
- 試験前になって慌てないためにも、遠慮なければ近憂ありと思って早めに復習を始める。
- 旅行の予約を後回しにしていたら宿が取れず、遠慮なければ近憂ありを実感した。
- 会社の資金計画を立てずに事業を広げれば、遠慮なければ近憂ありという結果になりかねない。
- 健康診断を受けずに過ごしていると、遠慮なければ近憂ありで、あとから大きな不安を抱えることがある。
- 町内会は災害時の備えを話し合い、遠慮なければ近憂ありという考えを大切にした。
- 目先の利益だけで契約を決めるのは、遠慮なければ近憂ありという言葉を忘れた行動だ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『論語』。
・渋沢栄一『実験論語処世談』1924年。























