【ことわざ】
鬼が出るか蛇が出るか
【読み方】
おにがでるかじゃがでるか
【意味】
次にどのような事態や運命が待ち構えているのか、まったく予測できないこと。


【英語】
・God only knows what may happen(この先何が起こるかは誰にも分からない)
【類義語】
・鬼が出るか仏が出るか(おにがでるかほとけがでるか)
【対義語】
・火を見るより明らか(ひをみるよりあきらか)
「鬼が出るか蛇が出るか」の語源・由来
「鬼が出るか蛇が出るか」の「鬼」と「蛇」は、どちらも突然姿を現せば人を驚かせる、恐ろしく不気味なものの代表です。ここでは、「蛇」を「へび」ではなく「じゃ」と読み、何が現れるか分からない緊張した状態を、鬼と蛇を並べることで表しています。
このことわざは、機関箱(からくりばこ)を胸に掛けた人形師の口上から生まれました。傀儡師(かいらいし:人形遣い)が、箱の中からどのような人形や仕掛けを出すのかをすぐには明かさず、観客の好奇心を引きつけるために用いた言葉です。
江戸時代の傀儡師には、首から木箱を下げ、箱の中で人形を操りながら町々を巡る旅芸人がいました。人形を動かす手元や仕掛けは箱に隠れているため、観客には、次に何が飛び出すのか分かりません。その見世物の仕組みと、「鬼が出るか蛇が出るか」という口上とが、よく結びついています。
もとの場面では、箱から何が現れるか分からないという、目の前の具体的な驚きを表していました。そこから「出る」は、箱の中から姿を現すことだけでなく、これから起こる出来事や、まだ明らかになっていない結果が現れることも表すようになり、前途を予測できないという現在の意味へと広がりました。
この表現は、特定の物語に書かれた一節ではなく、見世物の場で観客へ語りかける口上に由来します。そのため、もとの言葉には、人を怖がらせるだけでなく、「いったい何が出てくるのだろう」と期待させる、呼び込みの調子も含まれています。
近代の用例として、菊池寛の長編小説『真珠夫人(しんじゅふじん)』(大正9年、菊池寛著)に、このことわざが出てきます。同作は、1920年6月から12月まで新聞に連載され、前編は同年、後編は翌1921年に刊行されました。
作品には、ある人物が渡されたノートを受け取る場面で、「鬼が出るか蛇が出るか分からないそのノート」とあります。ここでは、実際の箱から鬼や蛇が現れるのではなく、ノートに何が書かれ、それによってどのような事態が起こるのか分からないという意味で使われています。大正時代には、すでに現在と同じ比喩的な用法が定着していたことが分かります。
よく似た言い方に、「鬼が住むか蛇が住むか」があります。近松門左衛門の人形浄瑠璃『心中天の網島(しんじゅうてんのあみじま)』(1720年・江戸時代中期、近松門左衛門著)には、「女房のふところには鬼がすむかじゃが住むか」とあります。こちらは、どのような恐ろしいものや考えが、すでに場所や人の心の中に潜んでいるか分からないことを表します。
「住むか」は、隠れているものの正体が分からないことを表すのに対し、「出るか」は、これから何が現れ、どのような事態になるか分からないことを表します。「鬼が出るか蛇が出るか」は、からくり人形師の箱を前にした驚きと期待の言葉から、先の展開を見通せない状態を表すことわざとして定着したのです。
「鬼が出るか蛇が出るか」の使い方




「鬼が出るか蛇が出るか」の例文
- 新しい制度がよい結果を生むか混乱を招くか、鬼が出るか蛇が出るか、実施してみるまで分からない。
- 封をされた調査報告書を前に、関係者は鬼が出るか蛇が出るかと息をのんだ。
- 交渉相手から返事が届くまでは、鬼が出るか蛇が出るか、誰にも先が読めない。
- 長年閉ざされていた蔵を開けることになり、家族は鬼が出るか蛇が出るかと身構えた。
- 監督を交代したチームが立ち直るか混乱するか、鬼が出るか蛇が出るかは開幕してみなければ分からない。
- 新事業への進出は、鬼が出るか蛇が出るかという不安を伴う大きな決断だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・菊池寛『真珠夫人』新潮社、1920〜1921年。
・近松門左衛門『心中天の網島』1720年。























